若林踏の文庫時評

【若林踏の文庫時評】AI捜査官から終末の謎解き、伝説の刑事までーー2026年3月前半の文庫新刊ミステリ3選

 2026年3月前半(3/1~3/15)発売の文庫新刊は、ミステリ関連の話題作が目白押しだった。

 翻訳作品ではジョー・キャラハン/吉野弘人訳の『瞬きすら許さない』(創元推理文庫)を挙げておきたい。2024年の英国推理作家協会賞最優秀新人賞を受賞した作品で、2月に行われた東京創元社ラインナップ説明会(※1)でも特に注目の新刊として紹介された1冊だ。

 いわゆるバディものの警察捜査小説に属する作品ではあるが、このバディというのが少々変わっている。警察官としての経験と自身の直観を信じるベテラン警視正がホログラムの体を持つ「人工知能捜査体」、つまりAIの捜査官と組んで捜査するという物語になっているのだ。最先端技術を取り入れた異色の相棒小説というフックだけではなく、捜査小説として筋立てもよく練られているところがポイントである。本作はシリーズ化されているとのことなので、是非とも今の内から手に取って続編が邦訳されることを期待しよう。

 野宮有の『殺し屋の営業術』(講談社)が昨年よりベストセラーになっていることで改めて注目を集めている江戸川乱歩賞。その乱歩賞を史上最年少で受賞したのが荒木あかねの『此の世の果ての殺人』(講談社文庫)である。

 第68回江戸川乱歩賞受賞作である本作は、小惑星の衝突が近づき混乱する日本が舞台となる本格謎解き小説だ。終末的世界観を静謐な筆致で描きつつ、緻密な手がかりの配置を基にした謎解きを構築する手腕に確かな力量を感じさせるデビュー作である。

 新進作家の第1作を紹介したところで、最後は大ベテランの人気シリーズで締めくくりたい。大沢在昌の『黒石 新宿鮫12』(光文社文庫)は新宿署生活安全課の鮫島警部が活躍する<新宿鮫>シリーズの第12長編となる。

 本作では“黒石(ヘイシ)”という正体不明の殺し屋を鮫島が追う物語で、異様な手口に拘りを見せる“黒石”はシリーズの中でも異彩を放つ犯罪者キャラクターとして造形されている。その“黒石”に鮫島が捜査を重ねて一歩一歩近づいていくところが本書最大の読みどころだ。現時点でのシリーズ最新長編は本書となるが、一刻も早く次巻が読みたくなる。

※1 https://realsound.jp/book/2026/02/post-2316243.html

■書誌情報
『瞬きすら許さない』
著者:ジョー・キャラハン
翻訳:吉野弘人
価格:1,430円
発売日:2026年3月11日
出版社:東京創元社
レーベル:創元推理文庫

『此の世の果ての殺人』
著者:荒木あかね
価格:935円
発売日:2026年3月13日
出版社:講談社
レーベル:講談社文庫

『黒石 新宿鮫12』
著者:大沢在昌
価格:1,386円
発売日:2026年3月11日
出版社:光文社
レーベル:光文社文庫

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