29歳独身中堅冒険者、異世界の沙汰は社畜次第……冬アニメも“アラサー主人公”の注目作が多数?

 若いキャラクターが中心になりがちだったアニメ界において、一定の人生経験を持つ“大人の主人公”はもはや珍しい存在ではなく、多様なジャンルで登場頻度を高めている印象だ。

 2026年1月期の冬アニメでもアラサー主人公が登場する。累計発行部数160万部の漫画が原作の『29歳独身中堅冒険者の日常』(奈良一平/講談社)は、日銭を稼ぐ世話焼き独身冒険者と天真爛漫で不思議な少女の心穏やかな日常生活を描いたファンタジー。スラム出身で孤児だった主人公のハジメは、努力の末に上級冒険者になったが、ゆったり生きたいと考えて村専属の冒険家になる。ある日のクエストでダンジョンに潜ったところ、スライムに食べられそうになっている少女・リルイを見つけて救うのだが、自分と同様に親に捨てられて、幼いながらも無茶なクエストをしていた彼女を放っては置けず、自分のパーティーメンバーとして迎え入れるというストーリーだ。

 ここから物語は“冒険者の日常”に“育児”という新たな要素が加わる。冒険者として生きていくための基礎を教え、村人から頼まれる雑務が増えるのを避けたいと思いつつも、結局は子どものために奔走する姿は、冒険者版の“シングルファーザー奮闘記”のようでもあり、派手な戦いや世界の危機もなく“育てること”の手間と温かさが丁寧に描かれ、視聴者はほっこりさせられることだろう。

 『異世界の沙汰は社畜次第』(原作:八月八・漫画:采和輝・キャラクター原案:大橋キッカ/KADOKAWA)では、現代企業で雑務を一手に押しつけられてきた29歳のサラリーマン・近藤誠一郎が、巻き込まれ事故で異世界へ召喚されるという導入から始まる。そんな誠一郎が異世界で最初に要求したのはまさかの「仕事」。社畜経験を手放せない姿がユーモラスであり、彼が配属される“経理”という職務を軸に、異世界国家の制度の歪みや不正に対して、真面目すぎるほどの労働倫理で立ち向かっていく過程が描かれる。チート能力を持たず、培った事務能力だけで異世界の組織を改善していくスタイルは、異世界ものとしてはむしろ新鮮で、誠一郎のストイックさがキャラクターの個性として作用。そこに氷の貴公子・アレシュらとの恋愛要素も加わり、異世界×仕事×BLの新感覚ファンタジーとなっている。

 他にも『ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~』(原作:ハム男、藻・漫画:鉄田猿児/アース・スターエンターテイメント)は、35歳のサラリーマン・山田健一が、昨今のヌルゲー仕様の時代の流れに嘆いたところ、「やり込み好きのあなたへ」という謳い文句のサイトに導かれ、ヘルモードの異世界で「召喚士アレン」に転生するというなろう小説の王道系。異世界では少年の姿をしているものの、「前世の記憶」が色濃く反映され、転生ファンタジーにおいて大人視点を補完する役割を果たしている。

 フィギュアスケートの世界を描いた大人気作『メダリスト』(つるまいかだ/講談社)は2期が放送。少女・いのりとコーチ・司のダブル主人公で、いのりの情熱や成長と、司の挫折やかつての自分を重ねた指導者としての思考が交互に描かれることで、視聴者は大人と子どもの双方の視点から物語を楽しむことができる。1期ではいのりをフィーチャーする演出から、原作冒頭であった司のエピソードがバッサリカットされていたが、2期では逆に司の視点が見どころ。20代後半になった元フィギュア選手特有の過去の挫折や経験、価値観の変化を丁寧に描写することで、物語の説得力が増し、それが若年層だけでなく社会人視聴者の共感も呼びそう。

 “大人・おじさん主人公”の作品といえば、32歳の日比野カフカが活躍した『怪獣8号』(松本直也/集英社)が思い出されるが、冬アニメの多彩なラインナップの中で、大人だからこそ描かれる物語もぜひ味わっていただきたい。

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