『ガールズバンドクライ』はなぜ“新しいアニメ”なのか メイキングブックの巻末で知る、スタッフの多さと馴染みのない役職名
TVアニメ『ガールズバンドクライ』を前後編でまとめ新規カットも加えた映画の『劇場総集編ガールズバンドクライ【後編】なあ、未来』が11月14日から公開となり、少女たちがバンド活動でぶつかり合いながら成長していく熱いドラマを劇場で見せている。
3DCGのアニメながら、ディズニー/ピクサーのテイストとも、同じガールズバンドものの『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』が使うセルルックとも違った「イラストルック」の『ガルクラ』がどのように作られていったのか。11月14日発売の『ガールズバンドクライ 公式メイキングブック』(玄光社)が前代未聞のアニメ誕生の秘密に迫っている。
聞き慣れぬ役職の重要性
『ガールズバンドクライ 公式メイキングブック』を手に取ったら、巻末の「スタッフ&キャスト」のページを見ると良い。並んでいる名前の多さに驚くだろう。そしてもうひとつ、重要なのが「キャラクターモデリング」や「リギング」「セッツ&プロップスモデリング」「ライティングコンポジット」といった、昔ながらの2Dによる作画アニメではあまり聞かない役職名が目に付くはずだ。
なにをしている人たちなのか。その仕事ぶりはアニメのどこに現れているのか。公式メイキングブックには、そうした役職の人たちがいたからこそ、3DCGアニメでも過去にあまり見ないルックを持ち、動きや表情を持ったアニメが出来上がったことが明かされている。
冒頭は、ファンならやはり気になるキャラクターたちについての話だ。キャラクターデザインを手がけたイラストレーターの手島nariが、『ガルクラ』に登場するバンド「トゲナシトゲアリ」のメンバーや、ほかの登場人物たちが作られていった過程を語っている。たとえばギターの河原木桃香は、当初ピンク色の髪で描かれたが、「バンドをやっているお姉さんを意識して、アシンメトリーのロングウルフに変化させた」(手島)という。
ピンク色の髪は、桃香が脱退した「ダイヤモンドダスト」の新しいボーカルに起用されたヒナに受け継がれた。このヒナが生まれてきた過程については、脚本の花田十輝が語っている。「トゲトゲ」が最後に立ち向かう相手として、悪徳プロデューサーが想定されたものの、何か違うということで桃香が前にいた「ダイダス」と戦うことになった。
そこで、「桃香と元メンバーだと、どうしても互いを想い合う関係となって対決として盛り上がらなくなってしまうんです」(花田)というところから、主人公の井芹仁菜が睨みつける相手としてヒナが生まれた。こうした裏話だけでも大いに刺激されるが、それが幾つも幾つも繰り出されて、キャラデザから脚本から絵コンテから演出から、さまざまなパートと絡み合ったからこそ『ガルクラ』という世界が作り上げられた。
手島のインタビューでは、シリーズディレクターの酒井和男が描いた絵コンテを元に、表情がしっかりとついたキャラの顔を描いた監修イラストを渡し、作画に反映させたことも明かされている。手島は「可愛さを重視」したそうで、『公式メイキングブック』に載った手島の監修イラストは、安和すばるの笑顔も桃香の泣き顔も、可愛くて感情が漂うものになっている。
3DCGアニメのキャラが、よく人形のようだと言われるのに対し、『ガルクラ』が2Dアニメのような豊かな表情でファンを誘った背景には、手島の監修がありそれをモデルに反映させた作画スタッフの努力があると言えそう。そのことが、2Dアニメの現場では耳慣れない役職の人たちによる証言によって語られている。
「リギングスーパーバイザー」としてクレジットされている戸沼祐介のインタビューを読むと、「リグ(骨組み)」というものが3Dのモデルに組み込まれ、豊かで柔らかな表情を作り上げる役割を果たしていることが分かる。「表情だけで100、髪の毛を入れると多分180」(戸沼)ものリグが入っているとのこと。その上で、「ブレンドシェイプ」という様々な表情のモデルを参考にアニメーターがリグを動かし表情を付けていった。
顔を大きく変形させる「エリアリグ」や「ポイントリグ」というものも入っていて、アングルが変わった時に人形を横から撮っているだけにはならない、アニメならではのデフォルメされた表情を作り出している。【前編】で仁菜の顔をハトの鳴き声が重なるシーンでは、コンテにはない形に唇をとがらせ、シワもつけて顔にぷっくりとした感じを出した。「表情に関しては、この作品でリードをとった気がします(笑)」という戸沼の言葉も、決して誇張ではないだろう。
「ライブ感」の演出方法は
ほかにもちょっとした工夫が『ガルクラ』ならではの豊かな表情を支えている。酒井とCGディレクターの鄭載薫へのインタビューでは、総集編の【後編】に出てくる、桃香と仁菜がドアを挟んでやりあっているシーンで、大きく変形させた表情がコミカルさを醸し出していることを紹介。漫画がアニメになったような面白さを、3DCG作品でどうやって出そうかと挑んだことが伺える。
『ガルクラ』の売りとなっているライブシーンの作り方も載っている。楽器を演奏しているシーンをモーションキャプチャーで撮影したあと、映像を見ながら監督が絵コンテを切り、それを元にカメラワークが作られる。そして、演奏したり歌っていたりする「トゲトゲ」のメンバーが造形され、表情が作られ衣装が重ねられていく。その上で、「ライブ感」を出すための工夫がされている。
アニメーションスーパーバイザーの竹中佑城によれば、「カメラのハンディ揺れや被写体を追いかけるみたいな動きをつけて、一生懸命にライブ感を出そうと思っても難しい」。そこで、実際のライブ映像やミュージックビデオを見て、「カメラワークをつける際に、実際の人間が動いた場合の挙動を意識」したそうだ。
さらに、TVアニメの第5話や、劇場総集編の【前編】に登場した、川崎のライブハウスで行ったライブの時は、三村厚史の絵コンテ・演出で、「1回ピントがずれてからもう一度ピントを狙ったり、キャラクターがぴょんぴょん跳ねるとカメラがジャンプを追い切れなかったり。すごく生でリアルっぽい」(酒井)演出が行われた。アニメを観て生のライブを観たような印象を受けたのには理由があった。
川崎のクラブチッタで行われた「トゲトゲ」の対バンライブで、「運命の華」が歌われた際には、189個ものライトを調整してライブシーンのライティングを作り上げた話、ギターやベースなどの楽器は、スキャンではなく写真やデザイン画を元にモデリングし、メーカーのチェックを受けてリアリティのあるものを作り出したという話など、ほかにも制作の裏話が満載。『ガルクラ』について知るだけでなく、これからのアニメ作りにも参考になる1冊だ。
プロデューサーの平山理志と酒井が3DCGでオリジナルアニメーションを作る方針を立て、題材にバンドものを選び、楽器が弾けて歌も歌えて声優もできそうなキャストを集め、作品を作る体制を整えていった話も本人たちから語られている。発端を知り、工程を知りそこにかけられた苦労や込められた思いを知った上で、改めて『ガルクラ』を観れば、より深く作品へと入り込めるようになるはずだ。