シリーズ進化系『変な地図』とノベライズ話題作『サイレントヒルf』 謎と恐怖の文芸ランキング

 前回このコーナーで少しだけ言及した雨穴の『変な地図』(双葉社)が2025年10月第4週のオリコン文芸書ランキング第1位となった。先週述べた通り、知念実希人『閲覧厳禁 猟奇殺人犯の精神鑑定報告書』が第9位、伊坂幸太郎『さよならジャバウォック』が第3位と、双葉社の作品が多くランクインしている状況だ。

 『変な地図』は覆面のウェブライターが手掛ける<変な○○>シリーズの第4弾に当たる作品である。第1作の『変な家』(双葉文庫)はウェブメディアおよびYouTube動画を基にした小説で、語り手であるオカルト専門ライターの雨穴が奇妙な間取りをした家の謎を追っていくというもの。図版を使った謎解き要素がある本であると同時に、疑似ドキュメンタリーの体裁を取ったホラーの要素も含む作品で、昨今のいわゆる“モキュメンタリーホラー”と並走する形でヒット作となり、映画化もされた。

 今回の『変な地図』で主人公を務めるのは、『変な家』に登場した設計士・栗原文宣で、学生時代の彼が自分の家族も関わる、ある土地の謎を追っていく物語になっている。本作で鍵となるのは題名の通り地図で、それ以外にも図版やイラストをふんだんに盛り込んだ謎解きが用意されているのは、シリーズお馴染みの構成である。今回、特徴的だったのは過去の作品と比較して謎解きミステリの様式に一層寄せた形で書かれていることだ。栗原が家族にも関わる謎を追うという物語の大枠の中に、更に様々な謎を詰め込んだ構造になっており、そのうちいくつかには昭和期の推理小説に親しんだ読者も楽しめるような趣向も盛り込まれている。

 『変な家』のヒットには昨今のホラーブームと一部重なる部分があることを書いたが、ホラー関連で今回のランキングにおける注目作は第4位の『サイレントヒルf』(KADOKAWA)である。人気ホラーゲーム<サイレントヒル>シリーズの外伝的作品で、2025年9月に発売された「サイレントヒルf」のノベライズ作品であり、ホラーや怪談を中心に活躍する黒史郎(くろしろう)が執筆を担当した。ゲーム作品自体の人気はもちろん、「サイレントヒルf」の主人公・深水雛子を演じた俳優の加藤小夏が自らゲームをプレイする実況動画が話題を呼んでおり、従来のゲームファン以外からも注目を浴びている。ホラー分野でファンを持つ黒史郎がノベライズを担当したことで、活字方面のホラーファンにも広く知られる作品となった。

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