社長・編集・原作者……三足のわらじは成立するのか? コミックルーム社長・石橋和章に「めちゃコン」が密着
オリジナル漫画制作会社・株式会社コミックルームの社長を務める石橋和章氏。かつて小学館に勤めていた際には『マギ』(大高忍)『神のみぞ知るセカイ』(若木民喜)などのヒット作、ウェブコミックサービス「裏サンデー」「マンガワン」を立ち上げた編集者だ。現在は社長業や編集業を行いつつ漫画原作も手掛ける石橋氏。その姿を収めた動画が11月7日に公開された。
石橋氏は電子コミック配信サービス「めちゃコミック」が主催する大規模な漫画コンテスト「めちゃコン」の審査員も務めている。本稿では石橋氏に密着した動画の内容を振り返りたい。
シナリオ執筆・漫画編集・社長業……経営者の3足のわらじを可能にするルーティン
株式会社コミックルームのオフィスは改装したばかりのおしゃれな空間。現在は社員数20名以上に拡大している会社だが、当初は家賃59,000円のマンションのワンルームだったと話す。
オフィスの壁に描かれていたのは「打ち合わせの『さしすせそ』」。とくに「さ」を示す項目として書かれていたのは「才能とだけ仕事しろ!!」という言葉。石橋氏は才能を「センス×モラル×努力×体力」と定義し、どれか一つでも突出したものがあれば良いという。また、「才能があると思えない人と仕事しても、良い仕事はできない。逆に才能があると信じたら、その人の才能にかける」と説明。
石橋氏は現在、社長業と並行しながら現役の漫画原作者としても活動。累計発行部数570万部を突破した『TSUYOSHI 誰も勝てない、アイツには』(作:丸山京介)をはじめ、週刊連載を4作品抱えている。そんな石橋氏が漫画のシナリオを書くのはいつも午前5時から8時までという。朝の数時間で1話分を書き上げており「色んな条件(環境)が重なれば、週に7本は書けます」と石橋氏。このルーティンが漫画原作者と社長業の両立を可能としている。
ただ経営者として社長業を務めるようになってからストレスが10倍になったと振り返る。「(会社員時代は)仕事のことを考えていない時間があったが、今はない」と話し、サウナ・整体・ヘッドスパへ通うようになったとかーー。
また石橋氏はテクノロジーの活用にも前向きだ。石橋氏が書き上げたシナリオを「ChatGPT」に投げかけ、感想やレビューを求めている。「下手な編集者より良い意見をくれる」と冗談めかして言う石橋氏。漫画制作の生産性が向上していると振り返った。もちろん全てを鵜呑みにしているわけではないだろうが、新しいもの・事への柔軟な対応力が「社長・編集・原作者」3足のわらじを履けるバランス感覚にも繋がっているのかもしれない。
「直しがこの世で1番嫌」
経営者として社長業をこなしている石橋氏。なぜ漫画原作も務めるのかという問いに対して「シナリオを書くこと自体は楽しい、続けていきたい」と話す。ただ自身の「伝えたいこと」を作品に込めるだけでは、作品が独りよがりになり、作品が売れないと石橋氏。
「人を楽しませようって気持ちで作った作品の方が売れる。自分の伝えたいことよりも、読者をどう楽しませたいかということの方がやっぱり大切。という結論になりましたね」(石橋氏)
原作者としての一面をもつ石橋氏は作家に修正(直し)を依頼する際、作家が納得して受け入れられるよう最大限の注意を払っているそう。原作者の視点から見ても「直しがこの世で1番嫌。修正依頼が1番腹が立つ」からだ。
「(編集者からの直しを)どうやって気持ちよく受け入れてもらうか。そこが腕の見せどころ」と石橋氏。クリエイターの気持ちを理解してからでなければ、安易に「直せ」とは言えないという。
そんな石橋氏が思う会社の課題は、自身が週に4〜5本ものシナリオを書いていること。いかに経験とノウハウを若い世代に伝え、成長させていくかにあるという。「自分の売り上げよりも社員の売り上げが気になる」と石橋氏。「生きていてどんな瞬間に幸せを感じるか」という問いに対しては「幸せ……わかんない。ヘッドスパ受けてる時?」と話しつつ「社員が育っている時。できなかったことができるようになっていると、今は1番うれしい」と話した。
漫画原作と社長業を同時並行で務めつつ、自身の経験を糧に次世代の育成に取り組む石橋氏。「どれだけ(自分の経験や技術を)若い人に伝えるかが、これからの10年のすべてだと思っている」(石橋氏)。