『愚か者の身分』コミカライズ版の魅力とは? 多田由美の独創的な絵柄で描かれるキャラたち
第二回大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤の小説『愚か者の身分』を原作とした実写映画が全国劇場で公開され話題となっている。北村匠海や綾野剛などの豪華キャストの好演が話題となっているが、徳間書店から単行本が発売されている小説や同作のコミカライズ版の魅力について紹介していきたい。
『愚か者の身分』は半グレ組織から抜け出そうとする男たちのクライム群像劇である。物語の中心人物となるタクヤと弟分のマモルは、とある組織で“戸籍売買ビジネス”に携わっている。これはお金に困った人物に近寄り、言葉巧みに身分や戸籍といった個人情報を売却させるというもので、現実社会でも存在する犯罪だ。
そんな闇ビジネスのリアルが描かれる一方、タクヤとマモルの身にとある事件が勃発し、事態は急展開を迎えていくことに。タクヤの兄貴分的な存在である運び屋・梶谷も関わり、3人の視点からスリリングな逃走劇が描かれていく。
コミカライズ版で作画を担当しているのは、『レッド・ベルベット』や『ディア・ダイアリー』などを手掛けた漫画家・イラストレーターの多田由美。同作ではそのスタイリッシュかつ独創的な絵柄によって、主人公のタクヤとマモル、梶谷の魅力を描き出している。
また、闇ビジネスの世界に囚われながらも人間としての情を捨てきれない……という登場人物たちの繊細な心の動きが表現されていることも大きな魅力だ。たんなるクライムサスペンスではなく、活き活きとしたキャラクターたちの生きざまを写し取っている。
さらに同作は、読者を飽きさせないテンポのいい物語も魅力。序盤からスリルに満ちた展開が繰り広げられる。マモルはある日、組織の上司・佐藤からタクヤに近づくなと言われ、翌日には組織幹部からの暴行を受けることに。さらにはタクヤの家の掃除を命じられるのだが、そこには血まみれの部屋が広がっていた……。この先も急転直下の展開が連発されるので、ぐいぐい物語に引き込まれるはずだ。
“ハマリ役”のキャスト陣
実写映画版では、『Little DJ~小さな恋の物語』などの映画を手掛けた永田琴が監督を担当。脚本は2023年に映画『ある男』で第46回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を獲得した向井康介が手掛ける。
なお予告映像では、登場人物たちが宙を舞ってコンクリートに叩き付けられるバイオレンスなシーンなども登場している。暴力が横行する裏社会や闇ビジネスのリアルを、生々しく描写してくれるのではないだろうか。
また、豪華キャストの集結も大きな見どころと言えるだろう。まずタクヤ役を演じるのは、言わずと知れた人気俳優の北村匠海。『東京リベンジャーズ』シリーズなど、不良役のイメージが強い北村だが、今回は少し大人びた兄貴分の役どころとなる。そして梶谷役を演じるのは綾野剛。予告映像では、裏社会の人間ならではの怪しい雰囲気を放っており、映画『カラオケ行こ!』の成田狂児役を彷彿とさせるところもある。
さらにマモル役の林裕太は、第81回ベネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門に正式出品された空音央監督の『HAPPYEND』にも出演していた注目の若手俳優。この三者による演技がどんな噛み合いを見せるのか、注目したいところだ。スリルあふれるクライムサスペンスと濃密な人間ドラマが融合した『愚か者の身分』。まずはコミカライズ版と原作小説に触れた上で、実力派スタッフとキャストたちによる実写化を堪能してみるのはいかがだろうか。