今のジャンプでは掲載できない? 中二設定にお色気描写も……少年誌の限界に挑んだ伝説漫画『BASTARD!!』

 『ウルトラジャンプ』(集英社)の30周年を記念したキャンペーンの一環として、『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』電子書籍版のセールが開催。SNSなどで大きな話題を呼んだ。

 同作はダークファンタジーの金字塔として知られる一方、“ジャンプ漫画の異色作”としても語り継がれている作品だ。時代を経ても古びることのないその魅力を紹介していきたい。

 同作は1988年に『週刊少年ジャンプ』で連載がスタート。その後『週刊少年ジャンプ増刊』や『ウルトラジャンプ』などに掲載媒体が移り、現在は未完のまま連載が中断されている。

 その魅力の1つは、あまりにも壮大な世界観にある。物語の舞台となるのは剣と魔法が支配する混沌の世界。闇の軍勢が王国に攻め入るなか、15年前に封印された伝説の大魔法使い“D・S”ことダーク・シュナイダーが蘇り、その圧倒的な力を見せつけていく。

 敵として立ちはだかるのは、異形の邪神アンスラサクスの復活を目論む四天王。さらに物語が進むにつれて話のスケールがどこまでも大きくなり、神や天使、悪魔といった人間を超越した存在の世界で激闘が繰り広げられていく。

 また同作は、本格的なファンタジーの設定をメジャーな漫画の世界に持ち込んだ作品としても有名。地水火風の4元素界にまつわる設定から始まり、魔法に「魔術」と「白魔術」、「暗黒魔術」と「精霊魔術」の4系統があるという設定や、ゴーレム、ワイバーン、ヒドラといった伝説生物の存在、吸血鬼(ヴァンパイア)に狼男(ワーウルフ)、不死(アンデッド)といった概念まで、お約束の設定がふんだんに取り込まれている。

 連載が始まった80年代後半といえば、元祖テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のベーシックルールセットが翻訳される一方、その誌上リプレイとして始まった『ロードス島戦記』がファンタジー小説として大ヒットした時代だ。すなわち日本で本格的なファンタジー文化が開花するなかで、それを“ジャンプ漫画”という形式に落とし込んだのが同作だった。少年誌の作品としては、かなりの異色作だったと言えるだろう。

 ちなみに作中に登場するダークエルフと人間のハーフ、アーシェス・ネイは、『ロードス島戦記』と並んで褐色の肌をもつダークエルフの原点の1つとも言われている。

少年誌とは思えない? 規格外のファンタジー漫画

 『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』のもう1つの大きな魅力は、“中二心”をくすぐるバトル描写にある。

 たとえば魔法使いたちは強力な魔法を放つ際、長大で荘厳な呪文の詠唱を行うのがお決まりの流れ。D・Sが必殺技「七鍵守護神《ハーロ・イーン》」を放つときには、「カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク 灰燼と化せ 冥界の賢者 七つの鍵をもて開け 地獄の門」とロマンあふれる単語の連なりを口にする。

 スタイリッシュな呪文の詠唱といえば、『スレイヤーズ』や『Fate/stay night』、『ヴァルキリープロファイル』など、90年代から現在に至るまでさまざまなファンタジー作品で見られる演出だ。同じジャンプ漫画なら、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』や『BLEACH』などが思い浮かぶ。同作はそうした流れで影響力をもった“原点”の1つと言えるのではないだろうか。

 そして実際に魔法が生み出す効果はすさまじく、ド派手でスケールの大きなバトルが描かれることになる。しかもそのパワーインフレに一切ブレーキがかからないため、どこまでも高次元の戦いに突き進んでいく。

 その一方、同作を語る上では“過激なお色気描写”の話題も外せないだろう。D・Sが大の女性好きでどこまでも欲望に奔放な性格をしていることもあり、作中ではさまざまなヒロインたちのあられもない姿が描かれる。到底少年誌とは思えないような行為を繰り広げることもあるので、現在の『週刊少年ジャンプ』では掲載が難しいのではないかと思われるほどだ。

 歴代ジャンプ漫画のなかでも有数の異色作。実際に読んで、同作が“伝説”と言われるゆえんを確かめてみてほしい。

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