奥山景布子による新作小説『紫の鯉』発売 首相・桂太郎の妾として知られる「お鯉」の物語

 奥山景布子による新作小説『紫の鯉』が10月31日(金)に徳間書店より発売された。

 題材となるのは、明治から大正、昭和をまたぎ波乱の人生を送った女性。首相・桂太郎の妾として知られる「お鯉」である。彼女の存在はこれまで史実の陰に隠れ、語られることの少なかった人物だが、奥山はその心の奥底にある「女として、人としての矜持」を丹念に掘り起こした。

 物語の主人公・お鯉は、東京随一と謳われた新橋の名妓。歌舞伎俳優や大物政治家からも寵愛を受け、華やかな花柳界に身を置いていた。しかし、運命は彼女をさらに激しい渦の中へと引きずり込む。山縣有朋の紹介により、やがて時の宰相・桂太郎の愛妾となったお鯉は、病弱な本妻の代わりに桂を支え、日露戦争期の政界を陰から見守る存在となる。だが、世間は彼女を「愛人」として冷たく見下ろした。日比谷焼討事件をはじめとする政変の嵐の中、お鯉は桂との間に生まれた娘たちの存在を守ろうと奔走する。

 「お鯉を殺せ!」という怒号に象徴されるように、彼女の人生は常に非難と孤立に満ちていた。それでも彼女は、自らの誇りと信念を手放さず、明治の女としてまっすぐに生き抜く。澤田瞳子は「世間とのいくさに挑み続けた女の澄みやかなる矜持は、今も眩い」と評し、書評家・東えりかも「明治女の気風に惚れる」と賛辞を寄せる。

 著者の奥山は、「彼女の存在を蘇らせたい。その本音を語らせたいという一心で書いた」と語る。史実を下敷きにしながら、ひとりの女性の生き方を現代に問いかける作品となっている。

 歴史に埋もれた女性たちの声を掘り起こす筆致に定評のある奥山景布子が描く“もうひとつの明治史”。時代の波に翻弄されながらも、自らの人生を貫いたお鯉の姿は、読む者の胸に深く刻まれるだろう。

作家・澤田瞳子 コメント

まっすぐに、一人生きる。世間とのいくさに挑み続けた女の澄みやかなる矜持は、どれほどの時を経てもただただ眩い。

書評家・東えりか コメント

“ニコポン”宰相、桂太郎の愛妾「お鯉」の左褄を取る芸妓から墨染め衣を纏うまでを色鮮やかに描き切った。明治女の気風に惚れる。

著者・奥山景布子 コメント

「私は首相の愛人でした。それ以前には、梨園の妻だった時期もあります」――今もし、こんな言葉を掲げて何かを語ろうとする女がいたら、まして、その人が政界を揺るがす疑獄事件の法廷に立ったら、きっと大変なことになるだろうと思います。存在を否定されるかもしれません。でもその人は確かにいました。女として、人として、揺れ動く心を持って、明治・大正・昭和を生きたのです。彼女の言葉を蘇らせたい。本音を探り、語らせたい。その一心で、この物語を書きました。多くの人に届けば、うれしく思います。

あらすじ

「お鯉を殺せーっ!」東京一の名妓と謳われ、大物政治家、歌舞伎俳優から愛されていた新橋芸者・お鯉。梨園、角界、花柳界で生きてきたお鯉は、山縣有朋の計らいで首相・桂太郎の妾となり、怒濤の人生を送る。日露戦争の真っただ中、病身の本妻に代わり桂を支え続けるも、お鯉に世間の風当たりは強い。そんな時、日比谷焼討事件が起こり、認知されていない二人の娘も桂にいることがわかり――。
明治大正昭和と激動の時代を生き抜いたお鯉の物語。

奥山景布子

1966年生まれ。愛知県出身。名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。高校教諭、大学講師などを経て、2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。『葵の残葉』で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。17年愛知県芸術文化選奨文化新人賞受賞。著書に『寄席品川清洲亭』シリーズ、『圓朝』『やわ肌くらべ』『葵のしずく』『流転の中将』、アンソロジーに『てしごと』などがある。

■書誌情報
『紫の鯉』
著者:奥山景布子
価格:2,090円(税込)
発売日:2025年10月31日
出版社:徳間書店

関連記事