「次にくるマンガ大賞」1位『魔男のイチ』なぜ面白い? 西修×宇佐崎しろが生むキャラと“王道外し”の設定
『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の漫画『魔男のイチ』が、「次にくるマンガ大賞2025」コミックス部門で第1位を獲得した。
同作は『魔入りました!入間くん』で知られる西修と、『アクタージュ act-age』の作画担当・宇佐崎しろがタッグを組んだ作品で、連載が始まった当初から大きな話題を呼んでいる。本稿ではじわじわと人気を増す“新時代のバトルファンタジー”の魅力に迫っていきたい。
同作の舞台となっているのは、魔法が“生き物”として存在するファンタジー世界。魔法に課された試練をクリアするとその力を習得することが可能で、魔女と呼ばれる人々は魔法ハンターとして活躍している。
そんななか、主人公のイチは男性でありながら魔法を習得できる超特異体質の持ち主だ。ある日、王の魔法(キング・ウロロ)と魔女のデスカラスが戦いを繰り広げているところに乱入したイチは、王の魔法を習得して世界に衝撃を与えるのだった。
同作の大きな魅力はこうした独創的な世界観にあるが、それを支えているのが宇佐崎しろの画力やデザインセンスだ。禍々しくもどこか崇高さすら感じさせる魔法たちの姿、優雅で洗練された魔女のコスチュームなど、その筆が作り上げる世界は唯一無二の輝きを放っている。
そして作中に登場するキャラクターたちは、いずれも強烈な個性を持っているのが特徴。たとえばイチは幼い頃に山に捨てられた野生児で、“獲物を狩ること”に目がないという設定なのだが、たんなる戦闘狂ではない。「相手に殺意を向けられるまでは、こちらも殺意を向けない」という“死対死”(しついし)のルールを自分に課しており、どんなときでも独特の死生観を貫いている。
正義の心で悪を滅ぼすヒーローではなく、獲物と自分の命に対等な価値を認める“狩人”としての主人公像。なんとも珍しいキャラクター設定で、ともすれば現実離れした印象になりかねないファンタジー世界にリアルな緊張感を与えている。
さらにイチは本来存在しないはずの“男の魔女”として、作中世界のルールをかき乱すトリックスターのように活躍していく。イチの存在があってこそ、先の展開を予想できない波乱に満ちたストーリーが成立していると言えるだろう。
魅力的なキャラクターたちと“王道を外す”センス
もちろん主人公以外のキャラクターたちも個性豊か。とくにイチの師匠となる魔女・デスカラスの存在は強烈だ。「現代最強の魔女」「超絶美人魔女」「超天才・みんな大好きデスカラスちゃん」と自称するほどの自信家で、自由奔放かつエキセントリックな言動によって魔女協会からは異端扱いされている。
プライドの高さに恥じない実力を持っているようで、戦闘シーンでは底知れない強さを見せつけてきた。初期パーティーに“最強の仲間”がいる状態で物語が始まるという設定は、王道をあえてズラす面白さを感じる。
また一見傲慢でクールな人間に見えるものの、その胸のうちには熱い魂を秘めており、イチと接する際には不器用なやさしさを覗かせることも。そのギャップも、デスカラスの大きな魅力と言えるだろう。
さらに物語に緊張感を与えているのが、「王の魔法」キング・ウロロの存在だ。イチに習得されたウロロはその精神世界に根を張り、たびたびイチに「魔女なんて裏切って自由に生きよう」と囁く。いわば『NARUTO―ナルト―』の九尾や『呪術廻戦』の宿儺に近いが、九尾ほど人間に心を許さず、宿儺ほど邪悪でもない。いかにも大きな謎を秘めていそうな存在で、読者の興味を引きつけている。
こうしてまとめるとよく分かるが、『魔男のイチ』は王道を押さえながらもあえてそれを踏み外すという絶妙なバランス感覚に満ちている。読者が「こう来るだろう」と予想した展開を軽やかに裏切りながら、それでも“読みたい方向”に着地するという離れ業の連続だ。
西修と宇佐崎しろという2人の才能が、『週刊少年ジャンプ』という舞台で理想的な噛み合いを見せている同作。次世代のバトルファンタジーを象徴する一作として、ここからどんな“魔法”を見せてくれるのか、期待せずにはいられない。