言語化が武器になる時代 会話と文章の「型」を覚えて一生の力にする『伝え方<話す・書く>の超基本』発売

 SNSやチャット、オンライン会議が日常となった今、「自分の言葉で伝えること」の難しさを感じる人は少なくないだろう。うまく説明できない、誤解されたくない、文章がまとまらない……そんな悩みを抱える現代人にとって、山口拓郎氏と森泉亜紀子氏による『伝え方<話す・書く>の超基本』(朝日新聞出版)は、まさに大人のための“新しい国語の教科書”ともいえる一冊だ。

『伝え方<話す・書く>の超基本』の中面より

 本書は、タイトルどおり「超基本」に立ち返る。構成は「話す」「書く」の2部構成で、計5章。第1章では“伝えるとは何か”という根本に立ち戻り、「目的」「内容」「相手」「手段」という4つの要素から〈伝える〉を分解する。つまり「なぜ伝えるのか」「何を伝えるのか」「誰に伝えるのか」「どう伝えるのか」という整理を通して、自己表現を構造的に理解するアプローチだ。

『伝え方<話す・書く>の超基本』の中面より

 多くの「話し方の本」がテクニックやフレーズ集に終始しがちななか、本書は“思考整理”から始まる点に独自性がある。背景にある目的や意図を言語化できてこそ、言葉は初めて人に届く。この考え方は、ベストセラーを多数出版している山口拓郎氏が提唱してきた「伝わる文章術」の核心にも通じている。

 第2章・第3章では、会話を〈聞く・話題をつくる・伝える〉という3つの技術に分けて解説する。たとえば、「相づち」「共感」「相手を主役にした言葉づかい」など、会話を円滑にする具体的な例が豊富だ。さらに、「初対面で好印象を与える3ステップ」「自己紹介を“タグ付け”する」など、実践的な記事が多数掲載されている。相手との距離を自然に縮める方法を、心理学的知見と合わせて分かりやすく整理しているのも特徴だ。

 印象的なのは、「会話は才能ではなく技術である」という点だ。つまり、トレーニング次第で誰でも“聞き上手・話し上手”になれるという前向きなメッセージが、読者の不安をやわらげる。

『伝え方<話す・書く>の超基本』の中面より

 第4章・第5章ではテーマを「書く」に移し、文章の設計から推敲までを体系的に解説する。「読み手を第一に考える」「目的と構成を明確にする」といった準備の重要性から始まり、「一文一義」「主語と述語の対応」「改行と箇条書き」など、基本ルールを具体例つきで学べる。さらに注目すべきは、“伝わる文章”を磨くための6つのテクニック――「無駄を削る」「具体的に書く」「比喩を使う」「専門用語をかみ砕く」「改行を活用する」「箇条書きで整理する」。本書ではその重要ポイントが視覚的にまとめられていてわかりやすい。

『伝え方<話す・書く>の超基本』の中面より

 「情熱で書いて、冷静に直す」という推敲法も印象的だ。感情に任せて一気に書き上げ、後から論理的に整える。この往復こそ、読者に届く文章を生むプロセスである。デザイン面にも注目したい。各ページには人気イラストレーターのうてのての氏によるイラストや図解が多く使用されていて、見ているだけでも楽しい。加えて見出し・箇条書き・チェックリストがテンポよく配置されている。読みやすさを徹底した誌面構成そのものが、「伝わるデザイン」の実例になっている点が巧みだ。巻末にはChatGPTを活用した“伝え方トレーニング”も紹介され、AI時代の学び方を提示している点でも新しい。

『伝え方<話す・書く>の超基本』の中面より

 本書の魅力は、「話す力」と「書く力」を対等に扱っていることにある。会話も文章も、“相手を思いやる想像力”という共通の根を持つ。テクニック以前に、「伝えたい気持ちをどう整理するか」「相手の立場にどう立つか」を見つめ直す構成が、すべてのコミュニケーションに通じる普遍性を生んでいる。学生、ビジネスパーソン、子育て世代、そして上司やシニア世代まで、誰もが自分の場面に引き寄せて読める。実践的で温かみのある“伝える技術”のエッセンスが詰まった一冊といえるだろう

 言葉が届かない時代、「どうすれば伝わるか」を改めて考えるための、最良の入門書である。

関連記事