SNSや掲示板をのぞけば、日常会話では耳にしない奇妙な言葉に出会うことがある。その多くはサイバースラング、つまりネット独自に進化した隠語だ。中でも代表的な例が、「チーズピザ（Cheese Pizza）」＝児童ポルノ、「le4k」＝情報漏洩を指す言葉だという。こうしたスラングは単なる言葉遊びにとどまらず、犯罪の温床や違法取引の暗号として利用されるケースも少なくない。専門家の調査によれば、現在確認されているサイバースラングは800種を超えるとも言われ、ネット社会の「もう一つの言語体系」として拡大を続けている。

なぜ「隠語」は生まれるのか

　スラングの役割は単純だ。外部の目から意味を隠すためである。インターネットの普及以降、匿名掲示板やダークウェブでは、監視や検閲を逃れる目的で次々と新たな言葉が生み出されてきた。「チーズピザ（CP）」が児童ポルノを意味するようになったのは、頭文字の一致を利用した悪質な隠語の典型例だ。

　一方で「le4k」や「pwned（やられた）」といった言葉は、ハッキング文化の中でゲーム的に発展してきたスラングで、必ずしも違法行為を伴うものではない。だが、いずれにせよ共通しているのは、一般人には理解しづらい「壁」を意図的に作っている点だ。テック系ジャーナリストはこう指摘する。「スラングはインターネット上のサブカルチャーを守る一方で、犯罪の隠れ蓑にもなります。表向き無害に見える単語が、実際には違法取引や違法コンテンツへの入口になることもあり、利用者が意味を知らないまま拡散するリスクが大きいのです」

800種の「暗号」が映すネット社会の裏側

　最近の調査によれば、暗号的に使われるスラングは少なくとも800種類にのぼる。アルファベットや数字を入れ替えた表記（「leak」→「le4k」）や、日常的な単語を転用した隠語（「pizza」「ice cream」など）が目立つ。これらは監視をかいくぐる目的だけでなく、「仲間意識」を形成するためのサインとしても機能する。テック系ジャーナリストはさらにこう続ける。「スラングは常に“消費”され続けます。意味が広まると監視の目に引っかかりやすくなるため、新しい表現がすぐに生まれる。まるで進化し続ける生物のように、ネット文化に寄生していくのです」

　実際、SNSで問題視されるワードが報道されると、裏コミュニティでは即座に新しい呼び方が開発される。結果、一般社会との乖離はますます大きくなり、「ネットの言語」は二層化していく。「チーズピザ」や「le4k」は氷山の一角にすぎない。表面的には innocuous（無害）に見える言葉が、裏では犯罪の符牒となる現実は、インターネットが持つ二面性を物語る。テック系ジャーナリストは警鐘を鳴らす。「サイバースラングは決して“オタク文化の小ネタ”では済まされません。知らずに使った言葉が、犯罪コミュニティと接点を持ってしまう危険性がある。利用者一人ひとりが“言葉のリテラシー”を意識する必要があるのです」

　ネットは誰にでも開かれた空間である一方、隠語と暗号が飛び交う裏面も存在する。800種を超えるサイバースラングは、その「闇」を映す鏡だ。私たちが無知のままスクロールする指先は、思いもよらぬ危険地帯に触れているのかもしれない。