『らんま1/2』アニメヒットで“令和のラブコメ旋風”巻き起こるか? 1980年代の「週刊少年サンデー」を振り返る
テレビアニメ『らんま1/2(第2期)』が日本テレビで10月5日からスタートすることが決定した。第1期ダイジェストムービーと主題歌情報も公開され、第2期放送に先駆けた特別先行上映会の開催も発表されている。
原作は「週刊少年サンデー」(小学館)で1987~96年に連載された高橋留美子の代表作であり、水をかぶると女性になる体質の早乙女乱馬と天道あかねが織りなすドタバタ格闘ラブコメディーである。MAPPA制作のテレビアニメ第1期が2024年秋に放送※され好評を博したが、第2期も連載当時の雰囲気を感じながらも令和世代が新しい楽しみを味わえる内容となるだろう。
※『らんま1/2』は1989〜92年にもキティ・フィルムとスタジオディーンによってテレビアニメが制作されている。
1980年代、サンデーの誌面はまさにラブコメ黄金期。毎週の発売日に胸を躍らせた読者も多かった。振り返れば、1970年代後半、少年漫画誌の勢力図は「週刊少年ジャンプ」の独走状態に傾きつつあった。「週刊少年マガジン」は『巨人の星』『あしたのジョー』終了後に長期低迷。「週刊少年チャンピオン」も黄金期を終えて部数を急落させていた。サンデーも手塚治虫などトキワ荘勢を中心にした60年代の黄金期に比べると存在感は薄れつつあり、そこで1976年、泥臭い努力根性漫画とは一線を画す「爽やかで都会的な青春漫画」路線へと舵を切ったのだ。
背景には社会の変化があった。70年代のウーマンリブ運動以降、女性の社会進出が進み、若者文化の中心に恋愛やファッションが置かれるようになった。男子読者の間でも少女漫画的な心理描写や恋愛要素が受け入れられ、ツッパリ漫画やスポ根よりも日常や感情の機微を楽しむ層が増えた。いわゆる「新人類」と呼ばれる世代は、恋愛を描く作品をむしろ現代的で洗練されたものととらえ、雑誌の読者層は確実に変わりつつあった。
その象徴だったのが、1978年に始まった高橋留美子の『うる星やつら』。ヒロインのラムは従来の受動的なヒロイン像を刷新し、恋愛関係において能動的に行動する存在として描かれた。ギャグとラブコメを絶妙に融合させた作風は週刊連載とアニメ化を経て爆発的ヒットとなり、サンデーの看板となる。また、『ナイン』『陽あたり良好!』『みゆき』で頭角を現していたあだち充が1981年、『タッチ』で恋愛を軸にした野球漫画という新ジャンルを確立。浅倉南という現代的ヒロインはラムと並び、女性読者を誌面に呼び込む効果をもたらした。
高橋、あだちの二枚看板に加え、80年代のサンデーはゆうきまさみが『究極超人あ〜る』で学園ギャグの新境地を切り開き、岡崎つぐおの『ただいま授業中!』や原秀則の『さよなら三角』は思春期の恋と笑いを描き人気を博した。こうした多様な作家陣が生み出す幅広い作風が、ジャンプやマガジンとは異なる個性を際立たせ、1983年、サンデーは発行部数228万部を記録。ついにマガジンを抜き去った。
一方、尻に火がついた王者ジャンプもサンデーのラブコメ旋風を無視できず、ちば拓の『キックオフ』、桂正和の『ウイングマン』、まつもと泉の『きまぐれオレンジ☆ロード』を投入。編集部がスローガンを「友情・努力・勝利」から「友情・勝利・愛」に改める案を検討したと言われるほどラブコメは少年誌の主流テーマに躍り出たのだ。
やがてジャンプは『北斗の拳』の大ヒットにより再び漫画界の覇権を不動のものとするが、80年代サンデーのラブコメ戦略は業界全体の作風を変えるほどの力を持っていたのは間違いない。
そして現在のサンデー作家陣もそのDNAを継承。『帝乃三姉妹は案外、チョロい。』(ひらかわあや)『百瀬アキラの初恋破綻中。』(晴川シンタ)『トニカクカワイイ』(畑健二郎)など、現代的な感性を持つラブコメが誌面を賑わせている。
『らんま1/2』のアニメ化は、80年代から続くサンデーの伝統を令和の時代にアップデートする試みとも言え、ラブコメ文化の歴史を再び動かす一手となるだろう。