「アックスボンバー」ハルク・ホーガン死去 『キン肉マン』『やっぱ!アホーガンよ』……モデルの漫画ではどう描かれた?

 アメリカの伝説的プロレスラー、ハルク・ホーガンが2025年7月24日、自宅のある米フロリダ州で静かに息を引き取った。享年71歳。死因の詳細は公表されていないが、事件性はないとされている。かつてリングの上で誰よりも輝いた“超人”が、自宅というプライベートな空間で人生の幕を閉じたというのは、どこか静かな終焉に思えてならない。

 ホーガンといえば、鍛え抜かれた巨体にブロンドの長髪、特徴的な口ひげ、そして「イチバン!」の決めポーズ。アメリカではもちろん、日本でもプロレスブームの象徴として一世を風靡した存在だった。新日本プロレスでは、必殺技「アックスボンバー」を引っ提げ、アントニオ猪木を“舌だし失神”させたシーンは今でも語り草だ。

 だが、ホーガンの影響は単なる“プロレスの枠”にとどまらなかった。漫画、アニメ、ゲームといったジャンルにおいても、彼の姿は何度も形を変えて再生されてきた。

 代表格は『キン肉マン』のネプチューンマンである。読者投稿の「イチバンマスク」と「ハルクマシーン」というキャラクター案をベースに、スタン・ハンセンの要素と融合させる形で誕生したこの超人は、金髪オールバックに口ひげ、決め台詞の「ナンバーワン!」、そして“喧嘩(クォーラル)ボンバー”というアックスボンバーを彷彿とさせる技まで、ハルク・ホーガンをそのまま投影した存在であった。

 また名前の「ネプチューン」については、当時プロレス中継で活躍していた古舘伊知郎が、ホーガンのアックスボンバーを海神ネプチューンの三叉槍にたとえて「甦ったネプチューン」と呼んだことに由来するという説もある。まさに“神格化”されたホーガン像だったといえよう。

 ネプチューンマンは“完璧超人”として、正義でも悪でもない第三勢力として登場し、シリーズに緊張感をもたらした。その選民思想と感情を排した闘い方は、子ども心にも強烈な違和感と恐怖、そして魅力を与えたものである。だが、師であるネプチューン・キングの正体が明かされたことで精神的な均衡を崩し、かつての威厳が急速にしぼんでいく様子には、一抹の哀しさすら漂った。彼の栄枯盛衰には、どこかホーガン自身のキャリア後半と重なるところがあるのではないか。

 一方で、ギャグ漫画の世界でもホーガンは異彩を放っていた。1980年代に「コミックボンボン」に連載された柴山みのるのギャグ漫画『やっぱ!アホーガンよ』は、ホーガンをモデルとした主人公・アホーガンが、壮絶な下ネタギャグを繰り広げるという前代未聞の作品だった。

 金髪に口ひげという外見だけでなく、ポ〇チンを使って野球のバット代わりにホームランを打つ、口ひげの先端が手のように動いて擬人化し、小型リングで桑田真澄をネタにしたホクロと戦う――といった内容が連発され、「くわーかっかっかっか!」という高笑いまでホーガン風味満点である。下品ながらも強烈な印象を残す作品として、当時の少年たちに強いインパクトを与えた。「アホーガンが終わればボンボンも上品になる」とまで言われた本作は、現在では再掲載の難しい“封印作品”と化しており、作者も消息不明とされている。

 ゲームの世界でもホーガンは欠かせない存在だ。『ストリートファイターⅢ』の主人公・アレックスは、金髪にバンダナ、開幕時のシャツ破りというホーガン直系のパフォーマンスを披露する。ライバルキャラクターの様に描かれているヒューゴーと対戦する際の演出は、ホーガンとアンドレ・ザ・ジャイアントの伝説的試合の再現である。

 他にも『ワールドヒーローズ』のマッスルパワー、『LIVE A LIVE』のマックス・モーガン、『レッスルエンジェルス』のクリス・モーガンは、見た目や必殺技、決めポーズの細部に至るまで、ホーガンのDNAが刻まれているキャラだ。

 漫画『NARUTO』に登場する四代目雷影・エーもプロレス技を駆使し、ラリアットを代名詞とするキャラクターとしてホーガンの影を感じさせる存在である。弟のキラービーがスタン・ハンセンをモチーフとしている点と合わせてみても、この兄弟キャラはプロレスオマージュであったと言えるだろう。

 これらを挙げていけばきりがない。『バーニングファイト』や『グランブルーファンタジー』のキャラにもホーガンのエッセンスが組み込まれ、浦沢直樹の『20世紀少年』では、登場人物オッチョが“ホーガン”とあだ名されるシーンが存在する。

 ホーガンは、現実のリングを飛び出し、フィクションの世界を何十年にもわたって席巻した稀有な存在だった。また、どこかの漫画やゲームで、誰かがまた指を突き上げ「ナンバーワン!」と叫ぶたびに、私たちはあの巨人の存在を思い出すに違いない。

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