地元から遠く離れてーー『アメリカン・グラフィティ』と『シャコタン☆ブギ』をめぐるノスタルジア
『アメグラ』と『シャコタン☆ブギ』に共通する空気
さて、『アメグラ』に呼応する日本の作品として、『シャコタン☆ブギ』がある。楠みちはるが1984年に「ヤングマガジン」で短編を発表し、その後連載化。1995年まで続いた。
舞台は高知。高校生のハジメとコージが、ソアラに乗って地元でナンパを繰り広げる青春漫画だ。
ハジメがソアラに乗れるのは、農家の長男として家を継ぐ約束をしたから。1980年代の日本では、地価の高騰もあって農家が金持ちになっていた。だから、「車を与えてでも地元に残ってほしい」という親の思いは、リアルな背景として説得力がある。そしてソアラというチョイスも、トヨタというメーカーの垢抜けなさと、背伸び感を描いていて絶妙。
この物語に、『アメグラ』を感じて読んでいた読者はほとんどいなかったはず。ただ登場人物の中でも、整備工場を営むジュンちゃんというキャラクターは、明らかに『アメグラ』のジョン・ミルナーを下敷きにしている。白いTシャツにブルージーンズ。レースは無敗、喧嘩も強い――まさに“地元のキング”。『アメグラ』のミルナーは、メキシコから来た男とのレースに勝つが、それは相手のミスによるもの。彼は自分の時代の終わりを悟っている。
ジュンちゃんにも同じ切なさがある。彼は地元に留まった小さな街のボスだ。ハジメもコージも、この地元を離れることを夢見て生きている。つまり、カートでありルークだ。
ルーカスが1973年に1962年を懐かしんで映画を撮ったのは、その年が“アメリカの最後の幸福な年”だったから。ケネディ暗殺の前年であり、ベトナム戦争や社会の混乱が始まる前夜の、ひとときのユートピア。日本でそれにあたるのは、バブル経済の直前ではないだろうか。『シャコタン☆ブギ』を今読むと、豊かな時代の空気が感じられる。地方にも活気があり、東京は憧れの対象だった。そしてその終わりの予感が、作中のあちこちに静かに漂っている。
■書籍情報
『これはニュースではない』
著者:速水健朗
価格:本体2,500円(税込価格2,750円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:A5変/184頁
ISBN 978-4-909852-54-0 C0095