士郎正宗ならではの時空を超越した世界へーー世田谷文学館『士郎正宗の世界展~「攻殻機動隊」と創造の軌跡~』レポート

 コンピュータやネットワークが普及した未来社会のビジョンと、武器を手に取り戦う女性たちを描いて世界中を熱狂させてきた漫画家、士郎正宗の業績を振り返る展覧会『士郎正宗の世界展~「攻殻機動隊」と創造の奇跡~』が、4月12日から8月17日まで世田谷文学館で開催中だ。『攻殻機動隊』『アップルシード』といった作品のために描かれた漫画原稿や、鮮やかに彩色されたカラーイラストが並び、見る人を士郎正宗ならではの時空を超越した世界へと引きずり込む。

 1985年に『アップルシード』でメジャーデビューを果たした士郎正宗は、1989年に連載を開始した『攻殻機動隊』がコンピュータ・ネットワークやサイボーグといったサイバーパンク的な世界観で、少佐こと草薙素子が犯罪捜査に活躍するスリリングでスタイリッシュなビジョンを描いて注目を集めた。インターネットが本格的に普及する何年も前の時点で、情報化がもたらす社会の変化を予言してみせた上に、人物もメカニックも圧巻の画力で描かれていて、他に類を見ないクリエイターとして今も全世界から賞賛を集めている。

 『士郎正宗の世界展』にはこうした士郎正宗が描いてきた作品が大集合。主要な作品について細部まで描き込まれた漫画の原稿や彩色されたカラー原稿、カラーイラストを並べて、その凄まじいばかりの画力と、キャラクターやメカニック、そして背景となる世界に対して発揮された想像力の凄さを見せている。

会場入り口

 『攻殻機動隊』のラストシーンに当たる「ネットは広大だわ」のコマが描かれたカーテンをくぐって会場に入ると、最初に「Chapter1 士郎正宗の創造の軌跡」として『ブラックマジック』のイラストや画業に関する年表、刊行してきた作品の表紙が展示されて、40年以上に及ぶその仕事ぶりを確認できる。

Chapter1 士郎正宗創造の軌跡

 続く「Chapter2 士郎正宗の描き方」では『攻殻機動隊』の単行本の表紙イラストとその線画が並べて展示してあって、草薙素子の体から伸びるケーブルや内部のメカが細かく描かれていることが確認できる。士郎正宗が使っている画材も展示。どのような道具を使って描かれたかを感じ取れる。蔵書コーナーには科学雑誌やSFホラーコミック誌「ヘビーメタル」が置かれて、テクノロジーに関する情報や日本の漫画とは少し違ったグラマラスだったりマッチョだったりするキャラクターの造形について、どこから影響を受けていたかが分かるようになっている。

Chapter2 士郎正宗の描き方

 以後、「Chapter3 アップルシード」「Chapter4 ドミニオン」「Chapter5 攻殻機動隊」「Chapter6 仙術超攻殻オリオン」と作品ごとに続く展示では、それぞれの漫画のために描かれた原稿が並べられて、ペンのタッチやフキダシ部分にぎっしりと詰め込まれた写植のネームを確認できる。『攻殻機動隊』は押井守監督によって劇場アニメ『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)として公開され、世界的な人気作品となったこともあり壁際と会場のセンターで大展開。大量の原稿が並んでおり、漫画を読んでいるような感覚でストーリーを追っていける。

Chapter3アップルシード
Chapter4 ドミニオン

 「Chapter5 攻殻機動隊」には、桜の24時間監視をしている公安9課の面々が描かれたカラー原稿も展示してあり、手描きの彩色の美しさに触れられる。近年はこうした彩色作業をコンピュータ上で行っていることもあり、「Chapter8 士郎正宗のイラストワーク」には、独特のセンスによって細部にわたって彩色されたカラーイラストが展示されて、今の士郎正宗のセンスを目にできる。

Chapter5 攻殻機動隊
Chapter5 攻殻機動隊のカラー原稿
Chapter8 士郎正宗のイラストワーク

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