鳥の“言葉”を解明! 動物言語学者・鈴木俊貴「きっと誰にでも動物の言葉を理解する力があるはず」

世界中の学者たちから大きな反響があった

――さて、最初に動物学の世界でも、言葉は「人間の特別な能力」だと思われてきたとのお話がありました。偏見かもしれませんが、海外では宗教の影響もあり、人間と動物にはきっちり線引きがされていて、動物に言葉があると認めるにはよりハードルが高そうなイメージがあります。

鈴木:宗教的な違いはたしかにあるかもしれません。シジュウカラに近い種類はヨーロッパにもたくさんいて、たとえばイギリスのオックスフォード大学では昔からよく研究されてきたんです。なのに、かれらが言葉を持つなんて誰も気が付かなかった。でも、きちんと研究を続けてデータで示せば、世界のみんなも納得してくれるんですよ。鳥の言葉の存在を認めてくれる。この本の最後のほうにも登場しますが、2022年に僕はとても感動する出来事を経験しました。

――感動する出来事。

鈴木:スウェーデンのストックホルムで開催された、国際行動生態学会に参加したときのことです。この学会は、2年に1度開かれる動物学では世界で最も大きな会議で、チンパンジーやゾウ、クジラなど、本当にいろいろな動物を研究している人たちが世界中から集まっていました。そこで僕は基調講演、つまり学会のトリを務めさせてもらったんです。普通はその分野の大御所がおこなう講演。最年少だったと思います。

――すごいことですね。

鈴木:シジュウカラ語の研究がいつのまにか世界に評価され、基調講演に招待されたんです。そこで提唱したのは、動物の言語を解き明かすための新しい学問。その名も「動物言語学」です。講演を聞く前は、みんな「言葉というのは、人間だけのものだ。動物の鳴き声は単なる感情に過ぎない」と考えていました。それが、「やや! どうも違うぞ」。しかも「こんな身近な鳥にも言葉が?」と変わった。シジュウカラといえば、日本だけじゃなくてヨーロッパにも広くいる、鳥類学者たちもさんざん研究してきた鳥。その鳴き声が、言葉になっている。それをちょっとしたアイデアで証明できる。そんなこと、誰も考えてこなかった。たとえば「ジャージャー」と鳴いたら「ヘビ」を指している。

――感情ではなく。

鈴木:そう、怖いという感情、気持ちではなく、「ヘビ」を指しているんです。その証明についてはこの本にも書きました。「ヒヒヒ」はタカだし、言葉を組み合わせて文章を作ったりもする。だから「この会場のみなさんが研究している動物にも、実は言葉の世界があるかもしれません」という話をしたんです。そしたら講演のあと、目の前に長蛇の列ができて、次のセッションが始まるまでの45分間、列が途絶えなかったんです。世界中の研究者が「素晴らしい!」と僕に声をかけるために並んでくださった。一生忘れられない出来事です。「人間と動物に二分した考え方を覆した」と言ってくださる方もいました。

――すごいですね!

鈴木:もちろん、シジュウカラも人間のように喋っているかといったらそれは違う。共通点だけでなく相違点もある。シジュウカラにはシジュウカラの言葉があって、人間には人間の言葉があって、どちらも動物の言葉のひとつ。そう考えるのが正しいんです。僕たちの言葉と何が似ていて何が違うのか。それを念頭に置いて動物たちの言葉をちゃんと調べれば、僕らはもっと正しく自然をみられるようになる。このことが豊かな未来に繋がっていくんじゃないかと思うんです。

――基調講演の反響はありましたか?

鈴木:2022年の基調講演から2年ちょっとが過ぎましたが、その間にもアフリカゾウにも言葉があるんじゃないか、それぞれの象に“名前”があるんじゃないかといった研究が出ています。チンパンジーには、シジュウカラのように“文法”があるかもしれないということを示唆する研究も発表されました。「動物言語学」という分野が、まさにいま世界で確立されつつあります。

ワクワクする世界がきっと待っている

――シジュウカラ、メジロ、スズメなどが、種を超えて互いの言葉を理解し合って、危険を伝えたり、食べ物があると教えたりしていることも紹介されていて、とても興味深いです。

鈴木:実は自然界ではたくさんの動物が、そうしたことをやっています。現代人のほとんどは言葉を持つのは自分たちだけだと、言葉によって思い込み、自然が正しく見れなくなってしまっている。それは動物の観察だけではないです。僕らは文字化された言葉に依存しすぎて、対面の中から気持ちを汲むことをかなり怠っているし、それで生きづらい社会になっていると思います。身近な動物の言葉に耳を傾けるということは、ひいては人間社会の多様な人と良い関係を作っていくことにもつながるんじゃないかなぁ。

――私たちにも鳥の言葉がわかるでしょうか?

鈴木:きっと誰にでも動物の言葉を理解する力があるはずです。たとえば犬や猫を飼っている人は、ちゃんと見ていれば彼らの意思を理解できますよね。

――それにしてもお話を伺っていると、先生は動物愛だけでなく、人間愛も強いんですね。

鈴木:そうですかね(笑)。僕は鳥の言葉がわかるとめちゃめちゃ楽しいから、みんなにも知って欲しいだけなんです。みんなが動物の言葉を理解できるようになったら、想像できないような未来が待っているんじゃないかと思っています。すごい可能性を秘めている分野だと思います。動物言語学は。

――ひとりひとりの自然の見方も大きく変わりそうです。

鈴木:SDGsとかで目標を立てるのはめちゃめちゃ大事なんですけれども、言葉ってすごく曖昧なもの。その実現に向けても大事になってくるのは、一人ひとりが体験を通して自然の豊かさについて理解すること。鳥の言葉がひとつわかるだけでも、本当の意味での自然とのつながりを取り戻すことができると思います。

いまも、みなさんがさらにビックリすることを研究中です

――本当に楽しく一気に読める本でした。苦労が伝わる本も読んでいると面白いですが、先生の本は、先生の目のキラキラがそのまま伝わって来るようで新しい価値観が広がるとともに、終始本当に楽しいです。卒業研究時に森にこもって白米だけ食べていた時は心配しましたが。

鈴木:ひとりで長野の山に研究に3ヶ月こもっていて。最後の一ヶ月は白米だけで生活していたんですが、体重が8キロ落ちて、51キロ。僕、178センチあるんですけどね。大学に戻ったらみんなに心配されました。「保健室に行った方がいい!」と連れていかれて、体脂肪計に乗ったらエラー表示。体脂肪が5%未満だと計れないようなんです。もうみんなで「大変だ!」となりましたね。

――気力でなんとかなっていたんでしょうか。

鈴木:というよりも、ただ楽しかったんです。翌年からは必ず毎日板チョコを食べるようにしてました。いま考えるとそれでも栄養足りていなかったかも。

――危ないですよ。これからもご活躍を期待していますので、倒れないようにしてください。もっともっとお話を伺いたくなります。そういえば、鳥は嘘もつくんですよね。

鈴木:そうなんです。みなさんがビックリするような発見も他にもまだまだたくさんあるので、またいつか本にも書こうと思っています。

■書誌情報
『僕には鳥の言葉がわかる』
著者:鈴木俊貴
価格:1,870円
発売日:2025年1月23日
出版社:小学館
https://www.shogakukan.co.jp/books/09389184

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