リアルなスパイ、どんな活動をしている? 漫画・アニメとは異なる大原則といえば?
■諜報活動=スパイではない?
また、諜報活動を行う人物を漠然と「スパイ」と括っているが、実はこのカテゴライズの仕方は厳密ではない。CIAの場合、ベアのような情報を収集するDOの工作員を「ケースオフィサー」と呼び、情報源のことを「エージェント」と呼ぶ。一般的に「スパイ」としてイメージされるのはこのケースオフィサーとエージェントである。その他に、ケースオフィサーとエージェントを仲介する「カットアウト」、諜報機関のリーダーとしてスパイたちをまとめる「スパイマスター」、暗殺を行う「アサシン」などがいる。組織のために敵組織をスパイしながら、その敵組織から逆に組織をスパイするよう雇われた人物のことを二重スパイ(ダブルエージェント)と言う。『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』で二重スパイが「モール(モグラ)」と呼ばれていたが、モグラは敵側の組織で働く潜入工作員のことを指す。国家安全保障とは全く無関係に行われる、営利目的の産業スパイもスパイの括りに入る。(厳密に分けるとややこしいので、本稿は特に理由がなければ「スパイ」として一括りにしている)
アメリカの諜報機関、NSAは悪者としてたびたび登場するが、フィクションで主役を張ることはあまりない。その理由だが、NSAが行うのはヒューミント(人的情報)ではなく、シギント(通信や電磁波、信号などを傍受して分析する諜報活動)が主体だからだろう。シギントは重要だが、少なくともスパイ映画の主人公向けではないだろう。日本も衛星による監視や在外公館での情報収集は行っているが、対外諜報活動は行っていないとされている。国産のスパイものアニメや漫画が架空の組織ばかりなのは、日本に本格的な諜報機関が存在しないためである。(一応、公安調査庁が該当すると言えなくもないが)
追記すると昨今よく名前を聞くオシント(OSINT)は「Open-Source Intelligence」の略であり、新聞や雑誌、テレビなど誰でも見たり聞いたりできる公開情報をもとに分析する手法である。シギントは通信の傍受や盗聴で得た情報を利用するため、情報を分析という点では同じだが、情報の入手経路が異なるため、オシントとは別物として分類される。実在の組織だと、ベリングキャットがオシントを行う組織の代表例である。ベリングキャットはイギリスで発生したロシアの二重スパイ、セルゲイ・スクリパリの暗殺未遂事件で、警察も成し遂げられなかった実行犯の特定に至っている。GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)が関与したことを、傍受も盗聴もせずに明らかにしたのは快挙である(ただし、オープンソースがメインではあったが、一部の情報を闇市場で購入している)
※本稿執筆にあたり主に下記書籍を参考としていることをお断りしておく。
加賀山卓朗(著)、♪akira(著)、松島由林(イラスト)『警察・スパイ組織 解剖図鑑』(エクスナレッジ)
ロバート・ベア (著)、佐々田 雅子 (翻訳)『CIAは何をしていた?』(新潮社)
池上彰 (著)『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)
落合浩太郎 (監修)『近現代 スパイの作法』(ジー・ビー)