劇団四季ミュージカル化 藤田和日郎『黒博物館ゴーストアンドレディ』はどんな作品? 歴史や伝記好きを魅了する理由
◾️飄々とした謎の幽霊・グレイの戦闘シーンにも注目
ナイチンゲールの活躍に寄り添うグレイが、キザでひねくれて横暴な態度を見せながらしっかりと彼女をサポートし、邪魔をしてくる幽霊や生き霊といった存在を相手に戦うカッコ良さにも惹かれてしまう。藤田の画力は、そうしたグレイの戦闘の凄まじさもしっかりと描ききる。バトル描写ならお手の物だけあって、躍動感もスピード感も凄まじい。それもただ上手いだけでなく、強い想いと強い筆力が乗っていて読者を圧倒する。
NHK Eテレで放送された『浦沢直樹の漫勉』に登場した藤田が、番組の中で描いていたのが『ゴーストアンドレディ』でグレイが仇敵のデオン・ド・ボーモンと戦う場面だった。藤田はそこでデオンを描いてはホワイトで塗りつぶし、また描いてはホワイトを塗り重ねるペン入れの様子を見せて、執念に取り憑かれた幽霊ならではの目を持つボーモンの姿を浮かび上がらせた。『黒博物館 図録』にはその原稿が掲載されていて、厚く塗られたホワイトが彫刻作品のような厚みをキャラに与え、存在感を際立たせていることが分かる。
『ゴーストアンドレディ』に続く『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』に登場するエルシィという“フランケンシュタインの怪物”も、白い目が何も塗られていない原稿用紙の白ではなく、ホワイトで塗り重ねられて白くされたものであることが原稿から分かる。白いものが存在するなら白で描く。一筆一筆に込めた思いが漫画の登場人物たちに生きているかのような雰囲気を与えているのかもしれない。
『三日月よ、怪物と踊れ』にも、古典小説『フランケンシュタイン』を書いたメアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン・シェリーという実在した人物が登場する。すでに『フランケンシュタイン』発表から23年が経って、大学に通う息子のために雑文を書いて必死に生計を立てているシングルマザーとしての日常に、現代の働く女性たちの苦労が重なって見える。
そのメアリーが、踊りながら人を殺める女性ばかりの暗殺者集団〈7人の姉妹〉のひとりの死体に、村娘の頭をつないで作られたという“人造人間”の女性・エルシィを従えるよう
な形になって、ヴィクトリア朝に迫る危機に向き合っていくというのが『三日月よ、怪物と踊れ』のストーリー。メアリーとエルシィの関係を通して、今以上に女性が生きづらかった時代を懸命に生きる女性たちの強さが感じ取れる。
こちら少年漫画誌に掲載の作品では難しいテーマで、『ゴーストアンドレディ』と同様に女性ファンにアピールするところもありそう。劇団四季なり宝塚なりバレエ・カンパニーによって舞台化され、〈7人の姉妹〉とエルシィが激しく踊りながら戦う様子を見てみたいところだ。