現代における忍術とは何か? 『忍者の秘伝』習志野 青龍窟 ×『忍者OL』橘もも 対談

現代社会における忍術の意義

――忍道の教えは仕事など人生の多くの局面に応用できそうな気がしました。現代社会における忍道の意義は、どのようなものでしょうか。

習志野:忍術は理にかなわないこと、つまり頭で考えたらやる必要のない無意味なことを、あえてすることが多いんです。例えば、私のように断食を31日間もやったところで、何か意味があるわけではない。給料が出るわけじゃないし、すごいことが言えるようになるわけでもない。命を張るほどのことではないわけです。でも、その意味のなさに突っ込んでいくことには意味がある。

 究極的にいうと、人生に意味はありません。人はどうせ死ぬわけですから。でもその無意味を肯定し、苦しいことにもあえて突っ込んでいく。そこで何かを養っていく過程で、本質に触れるようなことがあると思うんです。

 今の社会ではすぐにエビデンスや数字が求められますよね。「それをやってフォロワーが増えるの?」と言われたりする。でもそういうものに還元されなきゃいけないという考え方に対して、アンチテーゼを提示したいと思っています。

橘:私は本質を見つめる眼差しを養うこともまた、忍術の本質だと思っています。みんな、感情を重視しすぎのような気がするんですよね。私自身、怒ったり泣いたり情緒が豊かなタイプで、感情が大事なのは身をもって知っています。感情をないがしろにされることが人間は一番嫌なのもわかるから、大事にしなきゃいけないとも思う。

 でも感情に惑わされていると、見えなくなることが本当にたくさんあるんです。例えば、たとえば正論だと思って主張している意見も、最初に感情で結論を決めていて、その上に理屈を組み立てているだけのことが多い。でも答えありきで筋道を立てれば、どんな理屈だってもっともらしく成り立つんですよ。大事なのは自分の価値観や感情は一旦おいて、異なる意見の論理を自分の中にインストールすること。そのうえで必要ならば自分の主張は捨ててでも方向転換をする柔軟性だと思っています。

 『忍者だけど、OLやってます』を書くにあたって、ビジネスの本をたくさん読んだんですけど、会社も感情で乱れることが多いんですよね。例えば「娘の旦那に会社を継がせたい」と会社の功労者を蔑ろにしたり家族間で対立したり。世の中、感情で動くことばかりだからこそ、蔑ろにはしてはいけないとは思うのですが、だからこそ、自分の感情がどういう理屈で動いているのかを知ることは大事なんじゃないかなと思います。なぜ今、自分はこう思っているのか。人はなぜこういう選択をしてしまうのか。冷静に本質を見るために、忍術の心得はすごく役に立つと思っています。

習志野:もも先生のご縁で対談の場を設けさせていただいて、『忍者だけど、OLやってます』の監修に携われてよかったなと思いました。忍者の伝統や技法がこの素晴らしい小説となって、世の中に還元された。この小説があるおかげで、少なくとも今後数十年は、新しい世代が忍者の存在を知ることができます。そうやって連綿と後世に残されていくことは、素晴らしいことだと思います。



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