アニメに使われていたアナログ技術の復活に世界が注目? 六方画材店・店主に聞く、「セル画」の奥深い魅力

セル画の復活に取り組んだ画材店

 かつてアニメ制作の主力だったセル画は、2000年前後からデジタル化が進むと急速に失われていった。そんなセル画を令和の時代に復活させた人がいる。六方画材店の店主、高橋俊成さんである。高橋さんは「当初は反響がどれほどあるかわからなかった」と話すが、現在では海外からも問い合わせが相次ぐ事態になっているという。

 全国的に減少の一途を辿りつつある画材店の挑戦的な取り組みとして注目に値するものだが、高橋さんはいったいなぜ、デジタル全盛の時代に、アナログの極みであるセル画を復活させようと試みたのか。そして、海外からも反響がある要因とは。令和の時代のセル画事情について、高橋さんに話を聞いた。

製法も素材もほぼ残っていなかった

――高橋さんはもともとアニメ業界にいらっしゃった方なのでしょうか。

高橋:いえ、私は長らくビデオゲームの制作に関わっていて、アニメをやっていたわけではありませんでした。ただ、コロナ禍で時間ができ、試行錯誤する中でセル画に興味を持ったのです。趣味の範疇で研究していたなかで、セル画の製法や素材が令和の時点ではほぼ残っていないとわかりました。そこで、昔のセル画の復刻を行ってみようと思ったのです。

――開発を経て、いつ頃扱い始めたのでしょう。

高橋:そうですね。画材を本格的に扱い始めたのはコロナ禍の真っただ中ですので、だいたい3年くらい前でしょうか。事業化についてですが、他にやる人はいないだろうし、何とかできそうだと思ったんですよ。ただし、収益化を目標にやるつもりはありませんでした。産業需要はないに等しいし、趣味の需要もかなり限られていましたからね。

――ところで、高橋さんはまだ31歳だそうですが、ギリギリ、セル画のアニメをリアルタイムで見ている世代ですよね。

高橋:私は平成の生まれなのですが、7~8歳のころにセル画を使った最後のテレビアニメを見ていた世代にあたります。当時は『ドラえもん』や『ポケットモンスター』もセル画でしたが、中学生のころにそれらがデジタル化しました。その後、アニメもゲームもコンピューターで作る時代になっていきます。もちろん、子ども心にはそんな区別はついていませんでしたが。

――その区別がついている子どもがいたら、相当凄いですよね(笑)。セル画について調べてみて、どんな印象を持たれましたか。

高橋:調べれば調べるほど、これは正気の沙汰ではないなと(笑)。こんな大変なことをしてアニメを作っていたんだなと真っ先に思いましたし、使いこなしていたことに驚きました。現代の感覚からすれば、本当にわけがわからない。そのわからなさがかえって魅力に思いました。

実際に絵の具で塗ったセル画。セル画は一枚の絵画としても魅力が高い。
セル画を裏返すと、絵の具で塗った跡がわかりやすい。

国内外からの想像以上の反響に驚き

――確かに、セル画はわけがわかりませんよね(笑)。一枚一枚手塗りをしたものを、一枚一枚撮影していく。あんなに手間のかかる工程でアニメが制作されていたのですから。さて、高橋さんが最初に復活させた画材は何ですか。

高橋:生セル(セル)からはじめ、セル画用の絵の具(セル絵具)も復刻しました。今では、アニメ制作に使うタップも販売しています。

――販売を始めたら、反響はいかがでしたか。

高橋:SNSに呟いてみたら、想像以上にありました(笑)。ただ、今では私の知識も増えて、品質に自信を持てているのですが、売り始めのころはこれでいいんだろうかと、まったく手探りな状態でした。内心ドキドキですよ。自分では塗れるけれど、人が使えるクオリティかどうかは不安でした。アニメ業界とのつながりもなく、相談できるプロが周りにいませんでしたからね。

――実際に使われた方の感想はどうでしたか。

高橋:問題なく使えるとか、もっと色が欲しいなどの意見をいただきました。絵の具の塗り心地に関しても近いと言ってもらえたのは大きな自信になりました。反響をいただくなかで、アニメのプロの方ともつながれたのは驚きでした。

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