カイカイキキ・AYA TAKANOが描く“新しい未来”ーー個展「銀河の神話よりも長く alternative future」レポート
資本主義は正しい。科学の発展は素晴らしい。本当に? 我々現代人は、野放図に己の欲望を肥大化させ続けているだけではないのか?
そんなことをふと考えさせられる現代美術の展覧会がいま、東京・元麻布のカイカイキキギャラリーにて開催されている。
AYA TAKANO(タカノ綾)の個展――「銀河の神話よりも長く alternative future」だ(2024年11月30日[土]まで)。
AYA TAKANOは埼玉県生まれ。幼少期から父の蔵書を通して、科学やSF、スピリチュアルな世界などに関心を持つようになり、そうしたSF的な感性と“可愛いエロティシズム”を融合させた独創的なペインティング作品を、90年代末から発表し続けている。
また、数々の書籍(雪舟えま『地球の恋人たちの朝食』ほか)の装画を手がけるイラストレーターでもあり、『SPACE SHIP EE』、『ゼリゐ文明の書』といった先鋭的なSFコミックの描き手でもある。
近年では、環境への配慮から、主な使用画材をアクリル絵具から油絵具に変えたようだが、もともと彼女の絵が持っていた“軽やかさ”は失われることなく、“重厚さ”も兼ね備えた作品へと進化している。
AYA TAKANOが思い描く「現在」と「未来」
さて、カイカイキキギャラリーを訪れたことのある方はご存じだと思うが、同ギャラリーは2つのスペースを有しており、今回の個展では、それぞれのスペースに、「現在」をテーマにした作品と、「未来」をテーマにした作品が展示されている。
まず、「現在」のスペースでは、「いま」を謳歌する少女たちの日常が描かれた作品が展示されている。中でもひときわ目を引く少女は、資本主義のシンボルのようなタトゥーを手首と腿に入れている。山は針葉樹だらけで、街はアスファルトに覆われ、海沿いは工場建設のために埋め立てられている。TAKANOが描くこれらの風景はむろん美しいが、どこか刹那的な雰囲気も漂っている。
一方、「未来」のスペースに展示されている絵画の中では、「現在」からやや成長した少女たちが、“過去の文明の遺産”を再利用しながら、自然豊かな世界で、動物たちと楽しく暮らしている様子が描かれている。
ちなみに、会場で配布されているプリントに掲載されている漫画作品によると、「現在」と「未来」の間はわずか「10年」――その間に何が起きたのかは不明だが、いったん科学文明ないし資本主義社会が“リセット”されたのだということはわかる。
人類と自然が共生する“新しい未来”へ
なお、TAKANOが前回、同ギャラリーで個展を開催したのは10年前のことだが(2014年開催「すべてが至福の海にとけますように」)、それは、あの東日本大震災と原発事故のインパクトがまだ冷めやらぬ時期のことであった。また、2020年代に入り、新型コロナウイルスのパンデミックが、社会の在り方をある意味でリセットしたのは記憶に新しいところだろう。
こうした破壊と再生を繰り返している現実の社会背景が、今回展示されている作品群になんらかの影響を与えているのは間違いないだろうが、もともとTAKANOは、絵画やコミックの中で、科学の発展に警鐘を鳴らし続けてきたアーティストである(その傾向が最も色濃く表れているのが、前述のコミック作品『ゼリゐ文明の書』かもしれない)。
もちろん、彼女はそれ(科学の発展)をアタマから否定しているわけではない。その必要性をある程度は認めたうえで、「このあたりで一度立ち止まって、人類と自然が共生する“新しい未来”について考えてみませんか?」ということを我々ひとりひとりに問いかけているのだ。
とはいえ、明確な答えはそう簡単には出せないだろう。なぜなら、TAKANO自身もまだその答えを見つける旅の途中にあるのだろうから。いずれにせよ、同じ時代に生きる人間として、このアーティストの行き着く“先”を見てみたい――そう思わせてくれる個展だった。
開催概要
AYA TAKANO個展
銀河の神話よりも長く alternative future
日程:2024年11月2日(土)-11月30日(土)
開廊時間:11:00~19:00
休廊:日曜日・月曜日・祝日
(11/7〜11/10のArt Week Tokyo期間中は、連日10:00から。日曜日もオープンいたします)
場所:カイカイキキギャラリー
〒106-0046 東京都港区元麻布2丁目3-30
元麻布クレストビル 地下1階
https://gallery-kaikaikiki.com/
Instagram: @kaikaikikigallery