小原晩のエッセイはなぜ多くの人を魅了するのかーーインタビューで語った「生活への視点」と「過去の自分」

■しっくりくる場所が見つからなかった

納得できないことをできるふりしてやり過ごさないことは自分の中で大切なことだと話す

――仕事がハードだったとき、家に遊びにきたお友達が「君がこんな部屋に住んでいるのは、いやだ」と言って5000円札をおいていったエピソードがありました。たぶんもともとの小原さんは、居心地のいい暮らしを整えるのがとてもお上手なのかなと思ったのですが。

小原 どうでしょう。友達にそれを言われたときは、正直、うるさいなって思ったんです。確かにボロボロにはなっていたけど、全部私がやりたくて選んだことの結果だったから。私にとって大事なのは、納得できないことをできるふりしてやり過ごさない、ということ。どれだけ生活が崩れても、自分が納得できていれば大丈夫なんです。

――でもそれ、働いていると、いちばん難しくないですか。

小原 そうなんですよね。でも我慢ができないから、どうしても納得できないときは居場所を変えるということを繰り返して、10代から20代半ばまでは転々としていました。人の言うことを聞くことができなくて。

――ちなみに、くだんのご友人とはその後、連絡をとっていないとのことでしたが……。

小原 それがこのあいだ、夜10時くらいに新宿を歩いていたら、偶然見つけて、ちょっとしゃべりました。びっくりしたなあ。

――作中にも、ハントの腕前がかなり高かったと書かれていましたね。

小原 基本的に一人行動だったから、自由になんでもできたんです。でも、人の目があると思ったとたん、上手に身動きがとれなくなってしまう。これも書いたことですが、対人関係には「こうすれば大丈夫」という正解がないから難しいですね。納得できる行動ばかりをとれるわけではないし、その結果、傷つくのも傷つけてしまうのも、とても怖い。

――小説とエッセイでは、また書くときの意識は変わりますか?

小原 そうですね。どちらも、この手に入る範囲のちいさな日常の出来事を書きたい、という点では共通しているけれど、小説を書くときはより遠慮みたいなものがなくなるような気がします。小説を書くのは、おもしろいので今後も頑張っていきたいです。

■煮詰まった時に必ずすること

原稿を書くときのスタイルを聞き改めて『これが生活なのかしらん』を読むと一編一編が連綿としたつながりを感じられるようでより重曹的に魅力が増してくる作品だ

――原稿を書くとき、いつもアイスコーヒーとカルピスを用意する、とプロフィールに書いてありましたが、どういう執筆スタイルなのでしょう。

小原 とくに決めていないですが、夜に書くことが多いですね。夏は暑すぎるので、昼間に起きていても仕方がないから夕方に起きて、ちょっとずつ仕事モードに切り替えながら、深夜から明け方近くまで書いています。そういうとき、甘いものと苦いものが1つずつあると、なんだか集中できるんです。最近は24時間営業のファミレスが少ないので家で書くことが多いけれど、あいている時間は、行ったり来たりすることもあります。

――エッセイを読んでいると、お散歩好きなイメージがあるのですが、執筆中も出歩くことは多いんですか。

小原 もやもやとしてきたら、必ず散歩します。ルートを決めず、家から新宿までとか、前に住んでいた家のほうまでとか、最初はどこまでも歩いていこうとしていたんですけど、そうすると帰るころにはヘトヘトになっていたりするんです。だから最近は、家のまわりをずっとぐるぐるしています。そうすれば帰りたいときにいつでも帰れる。けっきょく最後はいつもこの公園にきちゃうなあ、あのおじさんいっつもいるなあ、とか眺めながら気分転換しています。

――家のまわりをぐるぐるまわっている感じも、エッセイの読み心地に似ていますね。手の届く範囲の、ちいさな世界で起きる、いろんな種類のおもしろいことを浮かびあがらせていく。

小原 そうですね。そうやってこれからも、書き続けていきたいです。書き続けていくためにも、もっとがんばりたいと思います。

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