「日本の紙でしか表現できない」ファッション誌『Lula Japan』10周年 鈴木和生編集長に訊く、矜持と挑戦

■大手出版社が触手を伸ばした中でも、パートナーに選ばれた理由

創刊10周年のメモリアル号となった『Lula Japan issue21』。ハードカバーの表紙に加えてアニバーサリーのコンテンツなどが入るデラックスエディション。

 『Vogue (ヴォーグ)』、『Harper’s BAZAAR(ハーパーズバザー)』などでスタイリストだったリース・クラークと写真家のデーモン・ヒースが創刊した、イギリス・ロンドン発の女性ファッションマガジン「Lula Magazine」。

  情報重視の女性ファッション誌とは一線を画すクリエイティブティに溢れるビジュアル作りは、話題となっており、日本市場だけでも、UK版が女性ファッションの洋雑誌としては異例ともいえる1万部越えの売り上げをみせていたという。

  Lulaの日本版が誕生したのは2014年。ビジネス的野心を持った多くの大手出版社が日本版のオファーをもちかけるなか、本国Lulaがパートナーとして選んだのは、鈴木和生さん率いる気鋭のクリエイディブカンパニーだった。

『Lula Japan』の編集長、鈴木和生氏。日本の紙と印刷技術の高さは世界に誇れるものだと話す。

  鈴木さんは、10誌以上のファッション・カルチャー誌を立ち上げ育ててきた敏腕の編集者であり、誰よりもLulaのクリエイティブに刺激を受けてきたという。Lulaが目指しているコンセプトを深く理解したうえで提案した日本版のビジョンが、UKチームの心にとまったいう。

 「Lulaは、彼女たちが良いと思うものだけを追い求めていて、それがタイムレスで魅力的にうつっていました。日本版も、それを損なわないクリエイティブを重視した誌面作りにしたい……その想いが伝わったのでしょう」

 こうして船出をした「Lula Japan」は、出版ビジネスの慣例にとらわれない、唯一無二なファッション誌を目指していく。

・国を問わず若手のクリエイターを積極的に起用する
・徹底的に情報を削ってページ構成していく
・広告のしがらみから自由になる

  どれも従来の日本的なファッション誌のベクトルとは異なるやり方だったが、海外戦略を見据えた上ではどれも必要なことばかりだった。特に、情報を取り入れるのではなく、むしろ削っていくことにこだわったという鈴木さん。非言語で伝わる本作りのほうが、雑誌そのものの魅力を活かせると直感していたからだ。

「この頃はインスタグラムが始まったばかりで、SNSはそこまで全盛期ではありませんでした。ただ、これからはビジュアルのほうが伝えやすい世界になっていくだろうなとは思っていました。目指すのは、写真で伝わるビジュアル誌。そんな次の時代を読みながら、Lula Japanの台割を作っていきましたね」

■『Lula』とは異なる『Lula Japan』の独自性

『Lula Japan issue21』の中面。

  もちろん、本国Lulaとは異なる、日本版ならではの差別化も忘れてはいない。モデル選び、色彩、そして紙質などもすべて日本版の独自性にこだわった。モデル起用を例にとっても、海外のファッション誌とは異なるイメージを打ち出していく。

 「花で例えると、海外では満開が美しいとされています。けれど日本では、つぼみの未熟さや散りゆく様子に美意識を感じる方が多いと思います。なので、海外ではスーパーモデルを起用してライティングもしっかりと組んだ撮影が主流ですが、日本においてはそのような美意識に合わせた部分を大事にしました」

  鈴木さんがLula Japanを作るうえで重視していたのが、消費されない、10年後読んでも色褪せない本づくり。言葉にすると簡単だが、雑誌は新刊が出れば、前号は大概、読み捨てられ、書店からも返品される運命にある。

  そんななか、本国Lulaは、バックナンバーをストックしてもらうために、装丁にもこだわっていた。たとえば背表紙にネックレスの写真を掲載していた時期があり、本棚にバックナンバーを並べることでクローゼットのような見え方になる。これも消費されないためのクリエイティブのひとつ。

 「Lula Japanでもアーカイブを大事にしようと考えたときに、毎号、テーマカラーを決めて装丁で表現しようと考えました。バックナンバーを本棚に並べたときに背表紙がカラーパレットのように見えるのは面白いかなと」

  色に対して古くから繊細で独特の美意識があった日本にはたくさんの伝統色があり、色彩の表現が多彩だ。Lula Japanでは、そんな伝統色を毎号テーマに打ち出している。 

 「日本には多くの色がありそれぞれたくさんの意味が込められている。その部分に着目したんです。そこからインスピレーションを受けて撮影をしたり、またアーティストにも作品を作ってもらったりしています」

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