突然リーダーになったらどうする?「赤裸々体験談が沁みる」話題書の著者に聞く、心が軽くなるリーダー論

■女性リーダーはもちろん、全ビジネスパーソン必読の理由は?

深谷百合子『不安が消えてうまくいくはじめてリーダーになる女性のための教科書』(日本実業出版社)

  女性の社会進出が進み、企業で要職に就く女性が増えている。しかし、いきなり管理職への昇進を告げられると、躊躇する人も少なくないはずだ。いや、女性だけでなく、男性も同じだろう。もしリーダーとして部下を抱える立場になったら、どう指示を出せばいいのか、仕事を割り振るにはどうすればいいのか、悩む人も多いと思う。

 そんな悩めるビジネスパーソンに贈りたい一冊が、『不安が消えてうまくいく はじめてリーダーになる女性のための教科書』(深谷百合子/著、日本実業出版社/刊)である。本書には、著者の深谷百合子氏がこれまで経験してきた“失敗”や“不安”を払拭するための方法が、ビフォーアフターとして赤裸々に書かれている。

 経験に基づく深谷氏のアドバイスは、現在リーダーとして仕事をしている人、もしくはこれからなりたいと考える人から共感を集めている。特に深谷氏が重視するのはコミュニケーションである。そのテクニック本としても参考になることが多く、リーダーなら手元に常に置いておきたくなる一冊といえる。

 今回は深谷氏にインタビューを敢行。これからの時代を率いるリーダーに求められる資質から、日本、さらには中国のリーダー像にまで視野を広げ、多岐にわたるテーマでお話を伺った。

■リーダーは親分肌じゃなくて良い

『不安が消えてうまくいくはじめてリーダーになる女性のための教科書』(日本実業出版社)の著者である深谷百合子氏

――深谷さんの本『不安が消えてうまくいく はじめてリーダーになる女性のための教科書』が女性だけではなく男性にも話題となっていますね。元々は女性のリーダー、もしくはリーダーになろうとしている人に向けて執筆された一冊ですね。

深谷:昨今、企業では女性の管理職を増やそうとする潮流があり、その影響で同程度の能力や実績があるなら男性よりも女性を優先するケースもあります。そんななか、まさか自分が管理職になるとは思わなかったのに、なってしまったという人が私の周りにも多数いらっしゃいます。この本は、管理職に選ばれてどうしようと悩んでいる方、数年のうちに自分もそうなるのではとイメージを持たれている方に向けて書きました。

――本の中には、深谷さんの実体験と、経験して学んだことが豊富に記されています。

深谷:私は長年、家電メーカーに在籍していました。製造の現場には男性が多く、リーダーはぐいぐい引っ張っていく人とか、統率力を持たなければいけないと感じる人が多い職場でした。もっとも、私が在籍した企業に限らず、リーダーと聞くと人をひっぱっていくとか、組織をまとめ上げる立場というイメージを抱く人は男女ともに多いと思います。例えば、野球で言えば中日や阪神の星野監督のように厳しいけれど熱血、親分肌を連想する人が大半ではないでしょうか。

■いろいろなタイプのリーダーが求められる時代

――そうですね。リーダーというと、ひと昔前の体育会系的なイメージが根強くあります。ところが、深谷さんはいろいろなタイプのリーダーがいてもいいと言っています。

深谷:昔ながらの引っ張り型のリーダーシップだけではなく、相手のために奉仕する“サーバントリーダーシップ”、チームのなかでリーダーの役割が共有される“シェアド・リーダーシップ”のような言葉も生まれました。リーダーの在り様も多様化しているゆえ、リーダーは自分に求められる役割は何なのか、原点に立ち返らないといけないと思います。こうしなければいけないという型があるわけではなく、状況に合わせて適材適所の働き方ができるほうが大事かもしれません。

――深谷さんの本を読んでいると、グイグイ引っ張っていくタイプよりも、部下を信頼して適切な仕事を任せられるプロデュース能力の高い人のほうが、リーダーには適格であるように感じます。

深谷:リーダーだけではなく、社員の誰しもがそういうマインドになってもらうことが理想です。上司からフィードバックしてもらうだけでなく、上司が後輩や同僚から「こういう仕事が得意ですよね」とフィードバックされてもいい。リーダーだけでなく、みんながお互いに影響を及ぼし合うチームのほうが理想的だと思います。

■光だけでなく闇の部分も見せる

――リーダーとして自分を素直に出すことに、難しさを感じる人は多いはずです。深谷さんはこれまでのリーダーでの失敗談などを本書でもオープンにされていて、とても好感が持てました。この境地に至った経緯をお教えください。

深谷:いえいえ、本当は私もカッコつけたがりなんです(笑)。当初はできることばかり主張し、できないことは隠そうとしていた時期がありました。けれど、仕事でトラブルやアクシデントが起こったときは、誰しもが同じことをやりそうだから次に生かそうと、教訓としてテキスト化してきたことがあります。だから、失敗に対してネガティブな気持ちが徐々になくなって行ったのが本音です。それに、自分の素を出すことは、家電メーカー時代に、地域の人に向けて講座を実施した際に培われたと思います。

――具体的にどんな講座だったのでしょうか。

深谷:「家庭でできる環境対策」といったテーマの講座でした。講座終了後のアンケートを見て、大半は好意的でしたが、「企業の闇の部分に光を当てて見せろ」と書かれていたことがあります。地元にある企業のことを、地域住民が必ずしも好意的に見ているとは限りません。闇ってなんだろうと、その時に考えたのです。それまで市民に見せていたのは光の部分だけで、“できていないことまでお伝えすること”が闇に光を当てることだと思ったのです。

――人も企業も何かとプラスの部分ばかりを表に出したがるものですが、マイナスの部分を明らかにするには勇気が要りますよね。

深谷:そうなのです。ただ、こんなこともやっているんだけれども、これはできていない……と闇の部分も開示したら、市民も「うちでも実は同じ悩みを抱えているんです」と話してくれるようになり、一気に距離が縮まりました。光を見せるのはPRですが、闇をさらけ出すと相手が心を開いてくれるきっかけになる。話が終わった後、市民の方々の表情が一気に変わるのがよくわかりました。

――大成功ですね!

深谷:リーダーも同じだと感じました。リーダーは何でもできないといけない、弱みを見せてはいけないと思う人は多いでしょう。ところが、わからない、できないと素直に言うことは部下と信頼関係を築くうえで大切です。少なくとも、私はこの講座を任されて以降、リーダー像がそのように変化しました。

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