ブーム到来の「時代劇」若い世代にとっては「異世界もの」?ーー気鋭クリエイター参戦で注目作続く

◼️山田尚子、野木亜紀子…気鋭クリエイターが力量を発揮できる理由は?

 ここで注目したいのは、『平家物語』と『犬王』のいずれもが、作家・古川日出男による現代語訳及び小説を「原作」としていること、前者の監督を『けいおん!』(2009/2010年)など知られる山田尚子(その最新作は、今夏公開された『きみの色』だ)が、後者の監督を『マインド・ゲーム』(2004年)などで知られる湯浅政明が担当していること、さらには『犬王』の脚本を、ドラマ『アンナチュラル』などで知られる――というか書き下ろしのオリジナル作である映画『ラストマイル』が、現在大ヒットを記録している脚本家・野木亜紀子が担当していることだ。

 それまで必ずしも「時代劇」のイメージがなかったクリエイターたちーー山田尚子、湯浅政明、野木亜紀子など、「時代劇」とは別のジャンルで人気と評価を獲得してきた第一線のクリエイターたちが、同時期に「時代劇」に挑んでみせたこと。そもそも作家・古川日出男にしても、まず最初に「歴史小説家」というイメージを持つ人は、きっと少ないことだろう(同様の話は、近年『源氏物語』の現代語訳に挑んだ作家・角田光代にも言えるだろう)。いまや「時代劇」の脚本家としても定評のある三谷幸喜にしても、もともと「時代劇」というジャンルから出てきた人ではなかった。さらに言うならば、『逃げ上手の若君』で「北条時行」という一般的にはあまり馴染みのない歴史上の人物を描くことを決意した漫画家・松井優征は、かつて『暗殺教室』で人気を博した漫画家だ。

◼️現代劇よりも「クリエイティブな自由度」が高い時代劇

 彼/彼女たちは、なぜ今「時代劇」に挑戦するのだろうか。無論、その理由はそれぞれ違うだろうが、ある程度の時代的な「縛り」をクリアすれば、むしろ「現代劇」以上にクリエイティブの自由度が高いこと(史実の隙間には、さまざまな解釈の余地が広がっている)。さらには、そこに「現代に通ずるようなテーマ」を見出すことが可能であること(過去は現在と地続きなのだから)。そのあたりに、彼/彼女たちは、大きな魅力を感じたのではないだろうか。そう、「時代劇」の世界には、第一線で活躍する人気クリエイターたちを惹きつける、潜在的な魅力と可能性が、まだまだ眠っているのだ。

『十一人の賊軍』(C)2024「十一人の賊軍」製作委員会

 それは先に挙げた、今後公開が予定されている実写映画の「時代劇」作品についても言えるだろう。役所広司演じる滝沢馬琴と内野聖陽演じる葛飾北斎の交流を描いた映画『八犬伝』の原作は、滝沢馬琴ではなく、その「創作」と「生涯」を、虚実を行き来しながら一大エンターテインメントとして描いた作家・山田風太郎の小説であり、それを監督するのは『ピンポン』(2002年)などVFX表現に長けたことで知られる曽利文彦なのだ。そして、『仁義なき戦い』シリーズなどで知られる脚本家・笠原和夫が遺したプロットを原案とする、山田孝之、仲野太賀、尾上右近らが出演する映画『十一人の賊軍』を監督するのは、『凶悪』(2013年)、『孤狼の血』(2018年)、さらには自身が総監督を務めたNetflixのドラマシリーズ『極悪女王』(2024年)が現在話題を集めている白石和彌(彼は、今年公開された草彅剛主演の映画『碁盤斬り』(2024年)で初めて「時代劇」に挑んだ)。ちなみに『十一人の賊軍』の小説版は、2010年に本屋大賞に輝いた『天地明察』以降、時代小説も手掛けるようになった作家・冲方丁が書き下ろしている。

 そして、大泉洋が主演する映画『室町無頼』の原作は、昨年『極楽征夷大将軍』で直木賞を受賞した作家・垣根涼介の小説であり、それを監督するのは『SR サイタマノラッパー』(2009年)でデビューして以降、『22年目の告白-私が殺人犯です-』(2017年)、『あんのこと』(2024年)など、さまざまなジャンルの作品に挑んできた入江悠なのだ。そこには間違いなく、本来「時代劇」作家ではない彼らの「意気込み」と、確かな「野心」が感じられるのだ。

 果たして、彼/彼女たち(そこに「役者たち」も含めていいだろう)は、京都の撮影所を中心に綿々と培ってきた高い「技術」を有する「時代劇」というフォーマットの中に、どんな「新しさ」と「可能性」を見出しているのだろうか。とりわけ、今後公開が予定されている上記の実写映画については、その点に注目して観ることにしたい。それこそが、興行的な面も含めて、今後の「時代劇」の方向性を指し示す、新たな「道標」となるような気がするから。

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