漫画家アシスタント不足問題ーーアナログ画だけでなくデジタルでも「リモートでは教育が難しい」代替案は?

■いきなり即戦力が求められる

photo:miika laaksonen(unsplash)

 アシスタントは、デビュー前の漫画家志望者や、新人漫画家が務めるケースが多い。そのため、はじめは当然技術的にも未熟であり、漫画の専門用語を知らない例も珍しくない。最初から全工程をスムーズにできる新人など皆無と言っていいため、師匠の漫画家や仕事場の先輩アシスタントが手取り足取り教えていたのである。新人はそうやって技術を習い、アシスタントへの指示の出し方、漫画家としての心構えを覚えていったのだ。

 暗記中心の受験勉強であればリモートでも教育可能だが、手を動かす職人技はリモートでは教えにくい。漫画は特にそうだ。ところが、リモートが普及すると、教育の過程をぶっ飛ばして、いきなり即戦力を求められるようになった。アシスタントが最初からある程度、漫画のいろはを身につけている必要が生じ、一定のレベルが求められるようになったのである。前出のベテラン漫画家は、こう話す。

「アシスタントの参入障壁が上がったと思います。僕のもとで真剣に学んでデビューし、ヒットを飛ばした漫画家はたくさんいます。最初から上手い人は別ですが、今は下手でも磨けばダイヤモンドに化ける新人はたくさんいるんですよ。リモートが一般的になると、そういった人材が技術を教わる機会がなくなってしまうのではないか。将来のヒット作家が育たなくなるのではないかと心配しています」

■リモートでは教育が難しい?

 こうした弊害は既に生じている。ある若手漫画家は、SNSで募集したアシスタントに異世界物の背景を依頼したところ、かなり歪で不思議な背景が上がってきたという。問い詰めたところ、なんと、生成AIに背景を出力させていたというのだ。ポンと背景を出して、あとは漫画家が指示するまでゲームをやっていたという。技術が未熟なうえに、モラルがまったくなっていないのである。別のベテラン漫画家B氏も失敗談を語ってくれた。

「うちの作業環境はデジタルで、一時期リモートを取り入れていましたが、結局仕事場に集まってもらい、一人一台の液タブを前に作業するスタイルに戻しました。器用な人はできるかもしれないけれど、僕はリモートだと、相手がどんな絵を描いているのか監督できないのです。猫の手も借りたいほど切羽詰まった状態で、初めてお願いしたアシスタントからとんでもない絵が上がってきたことがある。それ以来、リモートはこりごりだと思いましたよ」

 もちろん、リモートの普及にもメリットはかなりある。ひとつは、地方にいながら漫画を描くことができるようになったこと。そして、アシスタントも同様に、地方にいながら仕事ができるようになり、働き方の幅は広がったといえる。しかし、B氏は「地方にいながらアシスタントができるのは、ある程度経験を積み、実力のある人でしょう。地方にいる人材にもうまい感じに教育を行き届かせることができれば、理想的なのですが……」と話す。

 デジタル世代の漫画家のアシスタント事情は、様々な問題が絡んでおり、なかなか複雑なようだ。何より、企業側のサポートは欠かせないだろう。アシスタント代は出版社ではなく漫画家が出す慣例がある。頼めば原稿料の大半がなくなってしまうため、寝る間も惜しみ、すべての工程を自分でやっている漫画家も少なくない。アシスタント代を原稿料に上乗せするなど、漫画家への創作の支援も必要ではないだろうか。

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