コトブキツカサ × 田中みな実『教養として知っておきたい映画の世界』刊行対談 好きな映画の思い出は?

田中:友達が周りで見守っていて。よく漫画とかである二人が会っている様子を、友達が木陰で見てるみたいな。

 待ち合わせして「ユウくんですか。田中みな実です」という感じで。それで映画を見て、ミスタードーナツに行って、解散しました。

コトブキ:その後、どうなったんですか?

田中:何回かメールしただけで、何も。それだけです。

ーーちなみに何の映画だったんでしょう?

田中:それが覚えてないんですよ。

コトブキ:ミスタードーナツは覚えていたけどね!

田中:緊張しちゃって。多分、作品よりも、男の子と一緒に映画を見てるというシチュエーションにどうしよう、みたいな。親にも内緒にしていたし。飲み物も買ったけど、音を立てちゃいけないと思って、飲めなかった記憶がある。だから全然映画に集中していなかったような気がします。

コトブキ:でもそれは思い出ですね。

田中:そうですね。逆に覚えていないということがリアルじゃないですか。

コトブキ:ユウくん見てるかな、この配信。もしかしたらSNSで「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だよ!」とか言ってるかも。

田中:いやそんな昔じゃないから! え、コトブキさんは白黒映画の時代ですか?

コトブキ:そんなわけないでしょう!

◼️映画館は特別な場所だった

『教養として知っておきたい映画の世界』の担当編集者による進行のもと、トークイベントは終始和やかに行われた

田中:映画館で初めて見た映画は何ですか?

コトブキ:何の作品だったかは覚えてないんだけど、やっぱり子どもの頃から映画館に通ってたんですよ。だから「東映まんがまつり」だったと思います。

田中:そうそう、子どもの頃は確かにありましたね。

コトブキ:そうですね。毎年「東映まんがまつり」っていうのがあって。漫画から映画化された作品を特集して上映するんです。

 僕の地元は静岡の富士宮でしてね。世代が同じ方はわかるかもしれないけど、小学校のときって二本立て上映だったんですよ。二本立てでした?

田中:いや全然、同世代と思わないでください!

コトブキ:じゃ、二本立てってわかりますか?

田中:わからないです。

コトブキ:要は、一本の映画チケット代で二本見ることができたんですよ。朝、映画を見に行くじゃないですか。二本立てだから、映画を一本見て、もう一本見られるんですよ。なおかつ、ずっといられるんです。

田中:すごい、歌舞伎みたい。

コトブキ:しかも入れ替え制じゃないんですよね。見たいと思えばずっと席に座っていられるんです。それで覚えてるのは、小学6年生くらいのときに『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』と『そろばんずく』が同時上映だったんです。原田眞人監督のおニャン子クラブが出演した作品と、森田芳光監督のとんねるずが出演した作品でした。

 一緒に行った友達はみんな『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』目当てでした。だからそれが終わったら、もう映画館を出ちゃうんです。でも僕はもったいないから「そろばんずく」まで見たい。それで僕だけ映画館に残るんですよ。「二本見られるのに、なんで一本で帰っちゃうんだろう」と思って。しかも僕、もう一回『おニャン子・ザ・ムービー 危機イッパツ!』を見ましたからね。

 本当にずっと映画館に入り浸っていたんです。あとがきに書いてありますけど、小学生の頃から映画館が居場所だった。両親は共働きだったし。特に中学の頃は部活に途中から行かなくなって。そしたら、夏休みとかに遊んでくれる人がいなくなるんですよ。

田中:確かに学生の頃は部活動の友達と動くことが多いですね。

コトブキ:部活に友達がいたのに、行かなくなっちゃった。だから居場所がないなって思ってるときに、映画館によく行ってたんです。その頃から映画館は特別な場所なんですよね。

◼️映画デートの失敗談

映画デートの失敗談を語るコトブキツカサ氏

ーーコトブキさんの初デートは「東映まんがまつり」だったということですか?

田中:コトブキさんのデート、そんなに気になります?

ーー気になりますね。映画中毒の方はデートにどういう映画を厳選するのか。

田中:確かに。ご結婚されていますけど、もししてなかったとして私が彼女だったら、「映画の専門家だから、どんな劇場にどんな作品を見せに連れていってくれるんだろう?」と思います。期待値はすごく上がります。

ーーそれが参考になる方もいるんじゃないかと思いまして。

コトブキ:今思い出したんですけど、10代のときに、地元の富士宮から電車で1時間くらいの沼津によく行ってたんです。映画館がすごく多かったんですよね。

 それで当時付き合っていた彼女と沼津までケビン・コスナー主演の映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』を見に行ったんです。前情報はあまりなかったんですけど、アカデミー作品賞を取っていることは知っていました。当時から映画好きだったから、とにかくアカデミー賞を取った映画を見に行きたいって思うじゃないですか。

 上映時間は三時間くらいあったんですよ。しかも割と渋い映画で、向こうでいう時代劇だった。で....…盛り上がらなかったですね。終わってから「ごめんね」って言いました。そしたら「なんか渋い映画だったね」って言われて。

ーー......あまり参考にならなかったですね。

田中:あははは。

コトブキ:いや、だから何を教訓にしてほしいかっていうと「アカデミー賞受賞作品だからカップルで見に行けばいい」ってもんでもないんです。

田中:確かに。

コトブキ:僕はその後にいろいろ学んで、いわゆる処方箋映画、つまりその人にどういう映画をおすすめしたらいいのかを考えるようになりました。以前、レンタルビデオ屋さんにいると、僕のことを知ってくれている人と会ったりしたんです。「コトブキさん、どの作品を見ればいいですかね?」とよく質問されました。そこでは僕は絶対に時間が許す限り、付き合いました。「どんな作品や監督が好きですか?」と聞いて、「だったらこれとかどうですか?」と。僕も勉強になったんですよね。そんな時期もありましたね。

田中:えー、いいですね。

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