豪屋大介とは何者だったのか? 先駆的なライトノベル『A君(17)の戦争』復刊に寄せて

 つまり『A君(17)の戦争』を生み出したのは佐藤大輔で、豪屋大介は佐藤大輔なのかというとそこは即答しづらい。菅沼によれば、佐藤大輔は『A君』を書きたくないと言ったらしい。佐藤大輔が佐藤大輔の名前で出しても新規読者の獲得にはならないこと、誰が書いても当たると思われたことが理由で、そこで豪屋大介なる佐藤大輔ファンの作家の登場となった。

 豪屋大介は、単行本版の第2巻に収録予定の文庫版第4巻『A君(17)の戦争4 かがやけるまぼろし』で、剛士を佐藤大輔の作品と深く関わりのある世界へと飛ばしてのける。ここまでくると、一ファンというのはもはや建前で、佐藤大輔と豪屋大介を重ねて見てみたくなるのが人情だが、ここにこうして『A君(17)の戦争』が復刊され、もうひとつのシリーズ『デビル17』の復刊も決まった状況で、改めて豪屋大介の作品に触れると、そうした詮索はどうでも良いと思えてくる。

 ここに豪屋大介の著作があって、読めば圧倒的な面白さを味わえる。それで十分だからだ。

 佐藤大輔が誰でどれだけの人気作家かを知らなくても、豪屋大介の面白さは微塵も揺るがない。『皇国の守護者』や『征途』を読み込んで、佐藤大輔ならではの史観なり理念なりに触れ、書きぶりに惚れ込んでいる人でなくても、『A君』や『デビル17』に驚嘆して歓喜できる。だから安心して手に取って欲しい。

 とはいえ、佐藤大輔に特徴的だった冷淡と思われながらも大局的に歴史を見る目は、『A君』の中にもときおり顔を出して、安易な願望充足に浸らせない。単行本版第1巻に収録の、文庫版では『A君(17)の戦争3 たたかいのさだめ』にあたるパートのエンディングで剛士は光に包まれる。そして目覚めた場所が舞台となった『A君(17)の戦争4 かがやけるまぼろし』では、純粋すぎる正義のヤバさが示され、平和な日常のすぐ側にある破滅への想像力をかき立てられる。

 それだけに、シリーズ完結の際にはどれだけの強烈なメッセージが放たれるのかが気になっていたが、残念ながら第9巻『A君(17)の戦争 われらがすばらしきとき』を最後にシリーズの刊行は止まってしまう。佐藤大輔の一連の著作と同じだとも言えるが、億がひとつにも別人だったら、いつか続きが書かれる可能性もあるかもしれないと考えると、佐藤大輔と豪屋大介を同一人物だと断じたくない。2つのシリーズでファンとなった人は、そういった複雑な思いを抱えて生き続けることになるのだろう。

 そんなファンに朗報がある。菅沼によれば、豪屋大介との打ち合わせの中で出たアイデアには世に出ていないものがあって、「なんなら『A君(17)の戦争』のエンディングのイメージだって聞いている」とのこと。これは気になる。どうすれば白日の下に引っ張り出せるのかを考えてしまう。

 『A君』の復刊を喜び、讃えて持ち上げ広めて続きを世に出させるしかないのだろう。豪屋大介は、『A君(17)の戦争』は、そうした賞賛に十分に値する作家でありシリーズだ。

■書籍情報
『A君(17)の戦争Ⅰ』
著者:豪屋大介
価格:5,280円
発売日:2024年9月6日
出版社:中央公論新社

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