アルファポリスの快進撃 好調要因は、相次ぐアニメ化と“ネットの才能”集める目利き力

 主にインターネット発のコンテンツを扱う出版社・アルファポリスが好調だ。2025年3月期の第1四半期決算で、売上高が前年同期比の27.0%増となる30億7600万円に達し、四半期単位で過去最高を記録。経常利益も同36.1%増の7億1500万円を確保している。

 “出版不況”が叫ばれて久しいなかで、アルファポリスはなぜこれだけの成長を見せているのか。同社は、自社作品のTVアニメ化により原作であるライトノベル/コミックの売上が増加したことを要因として挙げており、実際に『月が導く異世界道中』『Re:Monster』『THE NEW GATE』と、期内に放送されたアニメが当たっている。しかし、「たまたま人気作のアニメ化が続いた」という“特需”的な売上増ではなさそうだ。出版業界の動向に詳しいライター・書評家のタニグチリウイチ氏が語る。

「アルファポリス作品のアニメ化自体は、2021年に『月が導く異世界道中』のTVアニメ第一幕が放送されたり、2023年に『とあるおっさんのVRMMO活動記』が放送されたりといった具合に、定期的に行われてきました。ここにきてTVアニメというコンテンツが世界的に求められる状況となり、海外でも人気の異世界ファンタジーの分野で分厚いラインアップを持つアルファポリスの作品に注目が集まり、アニメ化が相次いでいると見られます。

 また、小説版は自社で刊行しても、コミカライズはコミックが得意な版元から刊行するケースも少なくないなかで、アルファポリスでは小説もコミックも自社で刊行していることも大きいでしょう。アニメ化による原作やコミックへの引き合いが、そのまま収益に乗るということです。気になるのは紙代や輸送費の上昇によるコスト増ですが、アルファポリスは2025年度の第1四半期で、紙の書籍の売上げ5.2億円に対し電子書籍の売上げは25.5億円となっていて、過去最高を記録。一般的な出版社と比較してコストを抑えられる電子の割合が大きく、ネット発の作品を多く集め、出口も読者層と親和性が高いネットを重視する戦略が好循環を生んでいると言えそうです」(タニグチ氏)

 インターネット上に、誰もが自由に表現し、誰もが自由にそれを楽しむ「都市」を造るーーというのが、“アルファポリス”という社名の由来になった理念だ。2000年の創業時からネット上の才能を見出し、書籍化事業を展開するために小説・漫画投稿サイトの運営を行うなかで、「業界/権威」より「市場/読者」が評価する作品に注力してきた同社のビジネスモデルがトレンドと合致し、ここにきて実を結んでいる面もあるようだ。

「ネット発の作品を早くから手掛けてきたなかで、吉野匠が自身のウェブサイトで連載していた『レイン』(※連載タイトル『雨の日に生まれたレイン』)がヒット作となり、柳内たくみが投稿小説サイトで連載していた『ゲート』(※連載タイトル『自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』)も人気を獲得して、アルファポリスというブランドを一般読者に浸透させてきました。小説投稿サイト『小説家になろう』が数多くの作品を集めて出版社に供給し、KADOKAWAが『カクヨム』でユーザー生成コンテンツの確保に力を入れるようになった現在でも、アルファポリスはその目利きと編集力を活かして作品を集め、自社から刊行する流れをしっかり形成している。『さようなら竜生、こんにちは人生』、『強くてニューサーガ』や『いずれ最強の錬金術師?』など、以降もTVアニメ化が決定している作品は多く、メディアミックス展開による恩恵はしばらく続きそうで、売上の高伸張も期待できます」(タニグチ氏)

 もっとも、ライトノベルもコミックも競争が激しいジャンルで、チャレンジを続けなければ高い業績を維持するのは困難だ。事業の拡大を目指す上で、アルファポリスはどんな戦略をとっているのか。

「アルファポリスはユーザーの間口の拡大にも熱心です。男性向けのライトノベルだけでなく、30代から40代の女性向け恋愛レーベルとして『エタニティブックス』、20代から30代の女性向けファンタジーレーベル『レジーナブックス』を早くに立ち上げ、女性の読者層にもしっかりと目を向けてきました。2021年には BLレーベル『&arche(アンダルシュ)』も創刊と、耽美な読者の確保にも余念がない。東雲紫雨『風と雲 丸山遊郭異剣譚』のような時代小説も出し、児童書やライト文芸といったカテゴリーにも作品を展開していくことで、面的に市場を取っていこうという戦略も見えます。こうした活動を支える人材の確保も進めていて、この3ヶ月で10人増やしたというから積極的です。また、国内が厳しいなら海外に目を向ける必要がある、というのが業界全体の課題でもあり、アルファポリスも5.5%の海外利益比率を30%まで高めるべく、非英語圏に対する翻訳版の投入を進めています」(タニグチ氏)

 さらに、アルファポリスの今後を占う上で大きなポイントになるのは、やはり現在の好調につながっているアニメ関連の事業だろう。同社は中期重点戦略のひとつとして「アニメビジネスの拡大」を掲げており、少額出資による原作書籍の売上増加を見込むだけでなく、出資比率の引き上げ等を推進することで、アニメ事業にかかわる利益の拡大を図っていくとしている。

「ただこれには、良質なアニメを制作してくれるアニメスタジオの確保という課題をクリアする必要があります。出版社によるアニメ制作会社自体への出資も始まっている状況で、アルファポリスとしても何らかの手を打ってくるかもしれず、引き続き注目したいところです」(タニグチ氏)

 ここにきて存在感を高めているインターネット出版社の先駆者・アルファポリスは、次の四半期も好調を維持するのか。アニメ化作品の多さやブレのない戦略の他に、何を仕掛けてくるのか、注視していきたい。

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