【漫画】「オシャレ」に感じるカフェの雰囲気、それって本物? SNS漫画『ムード』が深い
――こちらは2012年の作品とのことですが、今Xに投稿したのはなぜでしょう?
雉鳥ビュー(以下、雉鳥):もともと紙のZINEとして制作した漫画で、デジタルデータがなかったのが大きいです。今回Xに投稿した画像は当時のZINEをスキャンしたもので、印刷のかすれなど紙の雰囲気を伝えたくてこういう形になりました。
――カフェと同様に本作自体も独特な雰囲気を醸し出しつつ、大きなストーリーが展開するわけでもない質感になっていると感じました。制作の着想や経緯を教えてください。
雉鳥:当時、自分が感じていたことを割とストレートに書いていると思います。実際カフェの雰囲気の何が本物で、何がニセモノなのか、という明確な区別はないと思うのですが、その感じ(ムード)を表現したくて全体に漠然としたストーリーになったのかなと。
――中盤の回想、現在へ話が戻る、時系列の転換がアクロバティックですが、自然と読ませていて見事です。意識したことなどありますか。
雉鳥:そこを褒めていただくと嬉しいです。確かに本作はあえて時間を前後させたり回想の中で半年後になったり意外と複雑な構造になっています。主人公のモノローグで「記憶が未来か過去か曖昧だ」という表現がありますが、曖昧だけど雰囲気を伝えることを優先して物語を組み立てました。
後半の現在のカフェへ戻ってくる場面は、前のシーンが回想であったことを読者が忘れていると思い、1ページを使ってコーヒーカップだけ描くという荒技で時間を巻き戻しています。どんな状況でも読みやすく書くというのは常に気をつけていますね。
――カフェでの会話やバンドをやっているご友人、登場する音楽ミニアルバム『森山』など、自身の経験やモデルとした何かがあるのでしょうか。
雉鳥:自分のパートナーが学生時代に、特に音楽をやっていたわけではないのに友人に誘われてApple Storeでのライブに出演したことがあるんですよ。そんなウソみたいな思い出話をそのまま使っています。
あとは描いた当時、高円寺に住んでいたのでなんとなく音楽表現をしている人のミニアルバムというイメージが身近だったのかもしれません。『森山』というタイトルや曲名は本当に妄想です(笑)。
――他に制作において意識した点やこだわった点があればお願いします。
雉鳥:線を青、文字を緑と2色刷りで印刷したことです。そのため今回はZINEをスキャンするという手法を取りました。
――ペンを滲ませたような絵柄も印象的ですが、これについては?
雉鳥:実は制作方法が変わっていて、めちゃくちゃ小さく描いた絵を拡大したものが最終原稿なんですよ。あえて滲むボールペンを使ったのもありますが、線が荒い感じと滲みを感じるのはそのためです。
ネームを作った時から「いいものが描けそうだ」という感覚があったんですよ。その雰囲気(ムード)をどうしたら直接伝えられるかを考えた結果、この描き方に至りました。
線がコントロールできないのを楽しむ感じですね……。これっきり挑戦してない手法ですが、またやってみても面白いかもしれません。
――今後はどんな作品を描くご予定ですか。
雉鳥:最近は少し重いテーマの作品が多かったので、本作のような少し軽い気持ちで読めるものを書けたらなと思っています。
――憧れ、影響を受けた作品や作家はいますか?
雉鳥:色々な方に影響を受けています。この作品を書いた当時だと、つげ義春さんや逆柱いみりさんなど、いわゆるガロ系作家の方の影響がありました。最近は映画監督の濱口竜介さんにハマっています。
――作家としての展望、なりたい作家像を教えてください。
雉鳥:今年はたくさんの方に自分の作品を認知してほしいなと考えていて、フォロワーを増やすことが直近の目標です(笑)。どんなものを描いても、作品に通底する部分で「雉鳥ビューだ」と感じられるような作品を書いていけたら。
また8月18日に東京ビッグサイトで行われる「コミティア149」にも参加します。ブースはE26bで、新作として出す予定なのは小説家と悪魔の話(あくまで予定です……)。既刊も色々とご用意してますので、ふらっと立ち読みだけでも寄ってもらえたら嬉しいです。