『呪術廻戦』虎杖と宿儺の問答から何がわかる? 仲間たちの死を乗り越えて辿り着いた“結論”

 
(c)芥見下々/集英社

※本稿は『呪術廻戦』最新話までの内容を含みます。ネタバレにご注意ください。

『呪術廻戦』はたんなるバトルマンガではなく、登場人物たちによる哲学的な問答も見どころとなっている。とくに読者の注目を集めてきたのは、主人公・虎杖悠仁による「自分はなんのために戦うのか」という自問自答だ。8月5日に発売された『週刊少年ジャンプ』36・37合併号(集英社)では、このテーマについての1つの“答え”が示されていた。

 そもそも虎杖にとってすべての出発点は、第1話で病床の祖父に告げられた遺言にある。その言葉は、「お前は強いから人を助けろ」というもので、虎杖は言葉通りに学校の先輩を呪霊から救い出すために奮闘した。ここで虎杖は呪霊によって人間が殺されることを「間違った死」だと定義して、その悲劇を防ぐために戦うことを自分の使命とするのだった。

  しかしその後、特級呪霊・真人との出会いによって、虎杖の信念は大きく揺らぐ。人が理不尽に死んでいく様を目撃したり、自らの手で他人の命を奪ったりすることになり、「正しい死とは何なのか」という難問に突きあたってしまったからだ。

  さらに「渋谷事変」では宿儺の暴走によって、虎杖の存在意義が破綻する。人を救うために存在するはずの自分のせいで、より多くの人が犠牲になってしまったことに、虎杖は耐えられなかった。そして戦いに意味や理由を求めることを放棄し、自分は大きな「歯車」の1つだとして、どこまでも呪いを滅ぼし続けることを誓う。すなわち虎杖は、呪霊を倒すという「役割」を課すことで自分を奮い立たせたのだ。

  その後の「死滅回游」においても、基本的にこうしたやぶれかぶれなスタンスは変わっていないように見えた。だが、最新話にあたる第265話「あの日」では、虎杖がまったく別の“結論”に辿り着いていることが明らかになった。

  同エピソードは、虎杖が領域展開を発動した後、宿儺と共に生まれ故郷の岩手を歩き回るという内容だった。ここで何が起きているのかは一切不明だが、虎杖が宿儺に対して語り掛けた内容は興味深い。

  虎杖は、自分に与えられた役割をまっとうすることが“正しく死ぬ”ための条件だと認識していたが、今ではそう考えてはいないという。役割を果たさないどころか、何の結果も残さない人生だったとしても、「人の命に価値はある」のだと言い切っている。

  おそらくこの考え方は、虎杖自身を救うものでもあるだろう。つまりこれまでの虎杖は呪いを倒すという呪術師としての役割に突き動かされており、役割をまっとうしなければ「正しい死」に至れないと考えていた。しかし今ではその呪縛から解き放たれ、“ただ生きている”ことに自分の存在価値を認められるようになったのではないだろうか。

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