【漫画】お互いに近づきたい高校生の“噛み合わない関係”ーーSNS漫画『初恋』が与えてくれる驚きと切なさ

ーー本作を創作したきっかけを教えてください。

とだ:人と人との関係が噛み合わないというテーマを、恋愛をつかいながら描きたいと思い本作を制作しました。これまで二次創作(既存の作品を題材に作品を創作すること)を中心に制作していたのですが、自分の描きたい物語やテーマを表現するためにはオリジナル作品の方が合っているかと思い、本作を描きはじめました。

ーー嚙み合わない関係を描こうと思った理由は?

とだ:漫画や映画など、嚙み合わない関係を描いた物語が好きだったという背景があります。ただ個人的に恋愛を描いた作品を鑑賞するなか、関係が結ばれたり、または結ばれなくても綺麗なものとして描かれたりなど、恋愛自体が肯定的なものとして描かれるイメージがつよくありました。

 そんななかで多くの作品とは異なる切り口で描いたら漫画が面白くなると思い、本作を描こうと思いました。

ーー印象に残っているシーンを教えてください。

とだ:物語前半の颯人視点、陽央から颯人に好きな人がいると打ち明けたシーンですね。陽央が颯人に助けられてから、陽央から颯人の名前をちゃんと呼んでいるシーンは1度もなくて。制作時は陽央に颯人の名前を呼ばせたりしたのですが、名前を呼ばない方が、陽央が颯人の存在を認識していないことが強調されると思い、このシーンを描き直しました。

ーー陽央くんとは対照的に、颯人くんが陽央くんの名前を呼ぶ唯一のシーンが殴りかかる直前の場面であることにも切なくなりました。

とだ:そうですね。

ーー陽央くんが目にしていた女神さまの正体はなんでしょうか?

とだ:両親が不仲であったことから生まれた寂しさを紛らわせるため、幼少期に自ら作り出したイマジナリーフレンドのような存在だと考えています。年上の女性としてイメージしており、陽央自身、もしくは陽央の母親に似ているということを意識しながら描きました。

 体調があまり良くなく、その場にうずくまっていた際、偶然にも颯人に助けてもらったタイミングで幼少期に見ていた女神さまが再び見えるようになった。颯人がいると女神さまが見えるので、陽央は颯人にちょっと興味を持ったーーという流れです。

ーー孤独やある種の幼さを残す陽央くんが、クラスの中では人気者であるという事実にギャップを感じました。

とだ:構想段階から陽央は人気者だけど、実は心に空虚な部分がある人物として考えていました。人気のある人も、見えないところでは陽央のような事情があることを描きたかったです。

ーー陽央くんから名前を呼ばれたあと「友達 下の名前」と検索した当時の颯人くんの心情は、なぜ下の名前で呼ばれたのか、または自分も下の名前で呼びたい?

とだ:颯人にとって下の名前で呼ばれることは少ないので、下の名前で呼ばれることは親密さの表れであることを感じたのだと思います。

 「もしかしたら自分のことを友人だと思ってくれているかもしれない……」。そんな颯人の浮ついた心の動きを描きたいと思い、スマートフォンで検索する画面を描きました。

ーー本作の最後で提示される、陽央くん視点の物語の表題「はじめまして、こんにちは」に込めた思いは?

とだ:陽央を友人と思っている颯人と、颯人を友人もしくはクラスメイトの1人と思っている陽央の認識のズレを目立たせるために、この表題にしました。

 颯人視点の物語でも認識がズレている兆候がわかるような描写を入れましたが、実は颯人の名前だけではなく、顔すらもちゃんと覚えてなかったことが物語の最後で明確になるように、本作の最後に表題を入れました。

ーー今後の活動を教えてください。

とだ:これからも他者との相互理解の難しさや恋愛の不毛な様を、エンタメとして、自分なりに描いていきたいです。現在は別のオリジナル漫画を描いているので、完成したらSNSに投稿しようと考えています。また本作の続きも少し考えているものがあるので、いつか描けたらと思っています。

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