あばれる君が見つけた、家族との幸せのかたち「子どもの成長をずっと見届けたい、その思いで僕は変われた」

 体当たりなお笑い芸人・あばれる君が書き下ろした初めてのエッセイ『自分は、家族なしでは生きていけません。』(ポプラ社)は、妻と息子への愛あふれるエピソードが満載の一冊。独身時代は「自分以外興味のなかった人間」と自身を語るあばれる君が、家族と出会って見つけた幸せとは何なのか。普段テレビで見せている芸人のあばれる君とは少し違った、父親としての思いを語ってもらった。(南 明歩)

独身時代は自分のことばかり考えていた

初エッセイを上梓したあばれる君

――まずは初めてのエッセイを執筆した感想を教えてください。

あばれる君:楽しかったです。でも、こんな風に長い文章を書いたのは今回がほぼ初めてなんですよ。ときどきnoteにポケモンの構築記事や、昔ブログを少し書いてたくらいで。だから文章の量や内容で苦労した部分がありました。お話をいただいてから出版までの期間は1年くらいですけど、実際に書いた期間は5ヶ月くらいで意外と短かったです。短いエピソードを何本も入れる形で作ったので、最初のうちは月4本くらい書けばよかったんですが、段々求められるペースが速くなっていって、今年入ったくらいからは月8本、最終的には2週間に8本書いていましたね(笑)。

――家族のお話はもちろん、お笑い芸人としての下積み時代や幼少期のお話も書かれています。どのようにエピソードを選びましたか?

あばれる君:自分の記憶を小さい頃から辿っていって、「今日はこの時代のことを書いてみよう」となぞるような感じで書きました。芸人時代の話とかは自分の人生の軸になっている部分もあるので、外せなかったですね。本の構成に関しては、編集の方にどんどん原稿を渡していって、違和感が出ないように上手く並べてもらった感じです。自伝ではなくてエッセイなので、どこから読んでもクスっと笑えるように、そしてうるっと感動する感覚をなるべく多く味わってもらえたらいいなと思っています。

――今回、家族をテーマにしたのはなぜですか?

あばれる君:結婚して子どもが産まれて、子どものために生きていくようになった自分が一番考えているのが家族のことだったんです。僕としては読者を笑わせたい気持ちもあって、色々なエピソードを書いたんですよ。でも本にするにあたっては削ぎ落したり、逆に少し足りない部分を埋める作業もあったりして、結果として家族というテーマに統一されたエッセイになりました。今回は掲載しなかった幻の原稿もあるので、ぜひ2作目に入れたいなと思っています。

――初めてのエッセイ本を作るにあたって、一番書きたかったのはどのエピソードですか?

あばれる君:やっぱり奥さんである、ゆかちゃんとのエピソードですかね。もう自分が書くとなれば外せないので。だから最初はゆかちゃんのことばかり書いていて、編集さんも「めちゃくちゃ良かったです」ってすごく良い反応をくれて。本になる前の原稿もゆかちゃんが最初に読んでくれて、「すごく読みやすくていいね」と言ってくれました。ちょっと目をうるうるさせて、鼻を啜ったりもしていて。

――ゆかさんへの愛情がすごく伝わってきて、ある種のラブレターのような印象も受けました。

あばれる君:恥ずかしいっすね。ゆかちゃんはほんのちょっとテレビに出たこともあるからか、実は隠れファンが多いんですよ。そういう方々にも訴求できるんじゃないかっていう下心も正直少しあります(笑)。

本書に収録された父親とのエピソードを振り返る

――書いていて、一番印象に残ったエピソードは何ですか?

 子ども時代にミニ四駆の大会にお父さんを誘った話かな。僕のお父さんは、子どもと一緒に遊んでくれない大人だったんです。お父さんは先生だったんですけど、あの時代の先生はすごく真面目じゃなきゃいけないっていう風潮だったから、しょうがない部分もあると思うんですけどね。でも友達は遊んでもらってるし、親がバックについてるから良いパーツを集めてて、ミニ四駆も速い。

 対する僕はハサミで切ったガタガタの自作パーツだったわけです。本当はお父さんに見てもらったり、一緒に考えたりしてほしかったんですよ。だから大会に誘ってミニ四駆の魅力を一生懸命伝えようと思ったんですけど、結果的に怒られてしまって上手くいかなかったという。

――切ないエピソードでしたね。他にもギターを買ったあばれる君に対してショックを受けるお話も印象的でした。

あばれる君:あぁ、あれは僕がFlying Vっていう奇抜な見た目のエレキギターを買ってしまったんで、それを見たお父さんが、息子が本気でミュージシャンを目指し出したって勘違いしたんです(笑)。僕としてはただの趣味だったんですけどね。それで必死に僕を止めようとして、部屋のドアの隙間から“音楽だけでは食べていけないことを詠ったポエム”を滑り込ませてきたんです。もうぎっしり紙に書かれたポエムが延々と。あれにはびっくりしました。実家にもこの本を送ったので、そろそろお父さんも読んでる頃じゃないかな。緊張しますね。今度帰ったときに感想を聞いてみようと思います。

――ご自身も父親になった今、お父さんと自分を比較して思うことはありますか?

あばれる君:お父さんが一生懸命働く背中を見てきたからこそ、自分もそういう父親になろうっていうのは根底にありますね。ただ、僕は子どもの趣味にできる限り付き合ってあげる父親でありたいです。キャンプとかにも一緒に行ったりして、教えられるものは全部教えたいなと。

――バレンタインの日に、学校に行く息子さんの髪を梳かしてあげたという日常のエピソードからも、深い愛情が伝わってきました。

あばれる君:スキンヘッドでクシを使ったこともない僕が、息子の髪を梳かしてあげるというのは新鮮な体験でしたね。息子は照れくさそうにしていましたけど。息子といると、こんなちっちゃい人間がいるんだって常に新鮮で楽しいんですよ。

 独身時代は自分のことばかり考えていたけど、子どもができると、とにかく「この子を大切にしたい」というマインドになってきて、そこからさらに「この子の過ごす未来や地球を大事にしていきたい」「ここまで命を繋いでくれた両親や祖父母にも感謝したい」って広がってくるんです。今回この本を書きながら、そういった感謝の気持ちを再確認できたことも良かったですね。読んでくれた人も、同じように感謝の気持ちを思い出してくれたら嬉しいです。

――表紙や挿絵は漫画家の和田ラヂヲさんが担当されていますね。

あばれる君:僕が書いた三行日記のテーマに沿って、ラヂヲ先生が描いてくれました。挿絵を入れてもらうと、読後感が爽やかになる気がしたし、サクサク読んでもらえるのかなと思って。挿し絵や表紙に関してはもう100点ですね!

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