アニメ新作を待ちながら「リコリコ」成分を補給ーーノベルシリーズ第2弾『リコリス・リコイル Recovery days』が面白い

 美少女たちがワチャワチャとした日々を送りつつシリアスな任務に挑み、ハードなガンアクションを繰り広げるという、面白さの花束のような作品が『リコリス・リコイル』だ。2022年9月にTVアニメが終わっても、公式noteが立ち上がって制作資料や書き下ろし小説などを発信。そして3月8日には、小説版の第2弾『リコリス・リコイル Recovery days』(電撃文庫)がTVアニメでストーリー原案を担当したアサウラの執筆で出て、アニメで見たワチャワチャやガンアクションに触れさせてくれる。

 日本の治安を陰で支える組織「DA」は、孤児の少女たちを集めて養成し、銃器や格闘の技術をたたき込んで育て上げ、暗殺者「リコリス」として世の中に送り込んでいた。錦木千束はそんなリコリスでも史上最強と呼ばれた存在だったが、普段は墨田区にある喫茶リコリコで看板娘として明るく振る舞っている。

 依頼されれば人助けもする千束はどう見ても凄腕の暗殺者には見えなかったが、喫茶リコリコの店長でDAの訓練教官を務めていた「先生」ことミカの指令があれば、リコリスでは最上位クラスに当たるファーストリコリスならではの能力を振るって、銃器を持った屈強な男たちでもテロリストでも相手にしては易々と退けていく。TVアニメ『リコリス・リコイル』のヒロインとして登場した千束は、見かけや言動とガンアクションとのギャップで見た人の興味を誘い、圧倒的な強さで虜にした。

 そんな千束が喫茶リコリコで面倒を見ることになった井ノ上たきなとの関係が、『リコリス・リコイル』をさらに目の離せない作品へとパワーアップさせた。セカンドリコリスとして将来を期待されていたものの、命令違反の責任を問われて「DA」でも末端の喫茶リコリコに転属させられる。何事にも合理的で感情も乏しいたきなは、はやく実績をあげて本部に行きたいと焦り、喫茶リコリコに持ち込まれる仕事で暴走気味なところを見せる。

 ところが、歴代最強のファーストリコリスと聞かされていた千束が感情豊かで敵にも優しく、何より殺人を嫌って人殺しはせず手にした銃には非殺傷弾しか入れていない不思議な存在であることを知り、たきなにも年頃の少女らしい感情が生まれてくる。外形的にはバディとも言える関係で、情緒的には百合とも見立てたくなる千束とたきなの言動に、キュンキュンとさせられるアニメだった。

 加えてガンアクションやミリタリー描写の面白さがあった。第5回スーパーダッシュ小説新人賞大賞を受賞した『黄色い花の紅』(集英社スーパーダッシュ文庫)デビューした当時から、圧巻のガンアクション描写でライトノベルの世界に新風を吹き込んだアサウラがストーリー原案を務めただけあって、マニアも納得のバトルに仕上がっていた。それが少女たちによって繰り広げられるという意外さとも相まって。『リコリス・リコイル』はすぐに人気作品となり、放送終了後も続編が待たれ続けている。

 そうした期待に小説という形式で応えたてくれたのが、3月8日に刊行された『リコリス・リコイル Recovery days』だ。冒頭に収録された「第〇話『そして、幕が開く』」では、東京・錦糸町のあたりに店を構える「喫茶リコリコ」で働いている千束が常連客と映画の話をしているのを聞いたたきなが、自分は映画館には行かないと行って「なんで!?」と千束に驚かれ、映画館で映画を見る意義を強調されて一緒に映画を見に行くことになる。

 自分の都合に合わせられないと映画館を嫌うたきなの合理性と、大きなスクリーンでポップコーンを食べながら映画を見ることに意味があると強調する千束の情緒性がぶつかり合うやりとりに、これが『リコリス・リコイル』だと嬉しくなる。錦糸町の映画館が公園の北と駅の南に別れているというトラップは、錦糸町の映画館あるある話で経験者を微笑ませる。そんなコミカルな日常の中で、映画館行きを阻害する指令が「DA」から来て、ものの数行で片付けるところに2人のリコリスとしての強さが伺える。

 いや、そこでたっぷりとガンアクションを描くのが『リコリス・リコイル』だという意見もあるだろう。この『リコリス・リコイル Recovery days』の前に出たノベルシリーズ第1弾『リコリス・リコイル Ordinary days』(電撃文庫)が、殺伐とした展開もあったアニメの裏で繰り広げられていた、喫茶リコリコでの千束とたきなのおかしくて愛らしい日々を描いたエピソード集で、ミリタリー成分がちょっと足りない感じたファンもいた。その再来かと思われそうだが、『リコリス・リコリス Recovery days』は大丈夫だ。

 続く「第一話『Safety work』では、銃器を扱う少女たちの姿を作品に入れたい漫画家に頼まれ、モデルとなった千束とたきながリボルバーの拳銃とAKを持ってアクションするシーンが登場。銃器の持ち方からどうして扱いづらいリボルバーを選んだかまで説明されていて、リコリスたちにすり込まれている暗殺術の深さが垣間見える。そしてアサウラのミリタリーマニアとしてのこだわりも。

 それでも出そうな、漫画家の仕事部屋でまねごとをしているだけではといった声を、「第二話『Dog』が否定する。恩人のヤクザを殺された弟分が、AKを手にして復讐に向かった先でボディガードに雇われた千束と出会いバトルする。火力で上回るアサルトライフルのAKを使いながら、オートマチックの拳銃で非殺傷弾しか入っていない千束にヤクザが手を焼くシーンは、小説ながらもアクションが目に浮かぶ。

関連記事