ウド鈴木 × 伊東友香が語る、詩/短歌の優しい力 「終わりがあるから頑張れるし、周りの人たちへの感謝が生まれる」
詩という表現があったから伝えられたこと
ウド:伊東さんの詩集にある「幸せ」という詩。「誰かのために 何かをしたい そう思うくらい 私は幸せ」っていうのは、姉の言葉に通ずるものを感じますし、伊東さんの本質が表れているように感じます。
ウド:伊東さんって柔らかい人柄で、お優しい方じゃないですか。だからこそ、詩集のタイトルはかなり衝撃的でしたね。「神さまのいない場所で」って。
伊東:当初は「神さまのいない場所」というタイトルだったんです。でも、言い切ってしまうのはあまりにも希望がない感じがしたので、「で」をつけて少し余白を持たせました。
ウド:「神さまがいない」と言われると、救いようのない印象を受けますからね。でも、本編に収録されているタイトルのもとになった「神さまのいない場所で」という詩を読むと「神さまなんかいるわけないだろ と、よく兄は言っていた」「兄はひとりで死んだ 一瞬でも、神さまを感じただろうか」と書かれてあります。あぁ、そうか。これはお兄さんを想う言葉だったのか、お兄さんにとっては伊東さんこそが神さまだったのかもしれないな……と、しみじみ納得してしまいました。
伊東:そうですね、ウドさんの感想を伺いながら気が付いたのですが、神さまはいなくても、もしかしたらわたしが繋いでいた手のぬくもりにあるものを感じていて欲しいという願いを込めているのかもしれません。
ウド:また「つづき」という詩では、「つづきがあるのは残酷だ 希望という名の試練じゃないか」と書かれてあります。これ、まさにそうなんですよね。人が死ぬ、ものがなくなる……何かが終わることはすごく寂しい気がしますけど、終わりがあるから頑張れるし、今あるもの、周りの人たちへの感謝が生まれるのも事実なわけで。
伊東:「つづきがあるから嫌なこともあるんだよ!」って。そういう考えもありますよね(笑)。
ウド:僕自身、若い頃に比べたら体力も頭の回転も衰えてきました。“今”を生きるのに精一杯だったあの頃と違って、冷静に“未来には死があること”も考えるようになりました。客観的に見ると、それらはネガティブな変化かもしれません。でも、僕が歌集を出せたのは、体が衰え、死を意識する機会が増えたことで、ふと立ち止まったときに、ここまで連れてきてくれた人たちに対する感謝の気持ちが溢れてきたからだと思うんです。そう考えると、終わりがあること=死も悪いもんじゃないっていうか……。伊東さんは、お兄さんの死を受け止めながら、日々の些細な気持ちを綴る中で、そんなことを伝えようとしてくれているんじゃないかって思ったんです。
伊東:深く真意を感じ取りながら読んでいただけてうれしいです。もちろん、詩なので感じ方はそれぞれですけれど、ウドさんの感想をお聞きして、詩という表現があったから、それを一冊にまとめられたからこそ、伝えられた気持ちもあるんだろうなって、その実感に自信が加わりました。
伊東:今の時代、意見を表明することは簡単ですけど、四方八方から言葉の槍が飛んでくる危険もあって、素直な気持ちに自信を持ちづらいです。何か問題が発生すれば、あちこちで意見が飛び交い、もはや言葉の戦争状態。そんな環境にずっと身を置いていたら、心が迷子になっちゃいます。でも詩の世界では、何を書いても「そういう詩じゃん」と言い張れる。誰かから文句を言われる筋合いはないわけです(笑)。思ったことを素直なままに言葉にするとホッとします。ウドさんには短歌という表現があって、私には詩という表現があって。それらを介したうえで、こうしてお話ができるなんて、とてもピュアなことですね。
ウド:アハハ、恐縮です(笑)。伊東さんの詩集には、それこそピュアな気持ちが清らかにあふれているので、是非、みなさんにも読んでいただきたいです。詩の力、言葉の豊かさを、深く感じられると思います。
■書籍情報
『神さまのいない場所で』
著者:伊東友香
価格:1,320円
発売日:2023年6月8日
出版社:中央公論新社
『ウドの31音』
著者:ウド鈴木
価格:880円
発売日:2023年4月20日
出版社:飯塚書店