『ザ・キンクス』『えをかくふたり』『オッドスピン』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 2月のおすすめ新刊漫画

その月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき5作品とは?

『ザ・キンクス』榎本俊二先生

 とある地方都市に暮らす4人家族・錦久家(きんくけ)の日常を描いたホームコメディ『ザ・キンクス』。義実家へ顔を出したり、娘の三者面談に参加したり......物語の入り口は至って平凡な日常なのだが、気づけばどんがらがっしゃんのお祭り騒ぎ。あっという間に予想だにしない世界へと連れていかれてしまう、驚きと疾走感に溢れている作品だ。

  しかも、宇宙人が出てくるわけでも、魔法などの特殊能力などの飛び道具は一切登場しないのに、平凡な日常がこんなにもファンタジックに化けてしまう。天才の所業としか言いようが無い。また、毎話必ず“見開きで魅せてくる”瞬間があるため、電子書籍で読むのも良いが、出来れば紙書籍版で自分の手でぐわっとページをめくり、その瞬間を体感してほしい。

『えをかくふたり』中村一般先生

 とある港町で一緒に暮らす、イラストレーターの修とAI人型ロボットのハル。ゆったりとした時が流れるふたりの暮らしと、移ろう景色の美しさを描いた本作。精緻な筆致と柔らかな陰影によって描かれる風景描写は、本当に海のにおいや柔らかな風を感じるようで、なんともいえない心地よい気分に浸れる。

  一方で、作中では修の仕事風景もかなり細かく描かれているため、イラストレーターという仕事の裏側をこっそりと覗くようなお仕事マンガとしても読み応えがある。仕事をして、散歩をして......と、繰り返される何気ない生活のなかで交わされる2人の会話。そこから浮かび上がってくるのは「なぜ絵を描くのか?」という根源的な問い。美しい景色や一瞬は写真で残しておくこともできるのに、なぜ描かずにはいられないのだろう。優しく解きほぐされていく「描く」の原点や衝動の正体、そして明日も、その明後日も続く2人の生活をそっと見守りたい。

『オッドスピン』菅野カラン先生

 とある双子の姉妹が土地の所有者に成りすまし、金を騙し取る詐欺師「地面師」の世界に身を投じていくクライムサスペンス。詐欺師、クライムサスペンスというワードが並ぶと、どこか過激で残酷な物語を想像してしまうことだろう。だが、本作は良い意味でその期待を裏切る。そもそも姉妹が詐欺師になった理由は復讐でも金儲けのためでもなく、また、地面師として索動している最中も感情の起伏が少なく.......。

  つまり、本作においては善悪の境界線をまたぐ瞬間がとても静かで、妙にぬるっとした体温が漂っているのだ。「地面師」という馴染みのない世界に興味を掻き立てられて本作を手に取ったけれど、いざ読み進めていくと作中に漂う、この妙な空気感に夢中になってしまった。人が善から悪に転じる瞬間は実はすごく曖昧。そして、その境界線は私たちのすぐ隣に、いや、平行線にあるのかもしれないと。悪という領域や存在について再定義するような作品だ。

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