【漫画】ぬいぐるみと通勤するサラリーマン、同僚の女性に気づかれて……「好き」に正直になれるSNS漫画

――本作のアイデアはどこから?

幌琴似(以下、幌):初めて「コミティア」に出た時に大事にしていたぬいぐるみが人間になって会いに来る、という内容の短編を出品しました。そこで編集者の方から「もっとオリジナルを描いたらどうですか?」と声をかけてもらって。それを受けて長めの話を制作しようと思ったんです。

 ぬいぐるみを洗う男性YouTuberの動画を観て癒された時でもあったので、ぬいぐるみを大事にする男性の話にしようと。実際に自分でも洗濯しましたが、眩しい白色になる様は見ていて気持ちいいですよ。

――幌さん自身もぬいぐるみがお好きなのでしょうか?

幌:そうですね。ただ中学生になる頃から「いつまでも好きなのは変なのかな?」と思い始めたんです。一緒に寝るのも友達に隠したりして。好きなのに恥ずかしいという矛盾した感情を持っていました。

 その経験を踏まえて本作を描いた、というのもあります。ただ実際に読んでもらった感想を聞くと、意外と同じ趣味を持つ人は多いんだなと発見もありましたね。

――登場人物に自分を重ねるところもあった?

幌:どちらかというと、三恵さん(男性キャラ)の方に近いです。澄野さん(女性キャラ)の方は自分のありたい理想の姿として描きました。

――別の同僚から、ぬいぐるみ趣味について冷たい言葉を浴びせられるシーンの意図は?

幌:価値観が違う人に「考えを変えろ」とか「ぬいぐるみが好きな人を受け入れろ」と言うつもりはありません。それは仕方ないです。ただ一番伝えたかったのは、澄野さんが言っていた「自分で自分を否定してしまうのはどうなの?」というメッセージでした。

 他人の発言は止められないし、ぬいぐるみや自身の味方になれるのは本人だけ。他人ではなく、自分で解決する必要のある問題だと思ってます。

――そんな感情が吹き荒れるなかで、ずっとニュートラルで居続けるぬいぐるみたちは、対照的ですね。

幌:確かに。日常生活で色々なことを考えて疲れているので、彼らの無表情に励ましの笑顔や、こちらに同情してくれているような表情を自由に投影できることが落ち着くポイントかも。能面に色々な表情を読み取るのと似ている気もします。

――最後のコマに出てくる「狂ってる」という一言もインパクトが強いです。

幌:澄野さんも狂っている自覚があるから、このセリフを発したのかなと。「狂ってる」は友人がよく使う言葉でもあるので、記憶に残っていたのかもしれません。流行り言葉よりも、普遍的な言葉で心に残る表現をできる人から着想を得ることが多いです。

 ラジオも好きなんですよ。安住紳一郎さんの豊かな語彙、ジェーン・スーさんの人生相談における言葉選びは参考にしています。

――作画に関してはいかがでしょう?

幌:あまり描き込まず、セリフも少なく、読みやすくするのを心掛けています。その方が言葉も活きてくるので。ただ編集者さんからは「絵の情報量が多い方が読者は嬉しい」とも聞くので、正直ギャップを感じる時はありますね。

  理想は高野文子さんのような、少ない情報量で想像を掻き立てる作風。これからも作画だけでなく、コマ割やカメラワーク、セリフ、キャラクターなどバランスよく面白い漫画を描いていきたいです。

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