漫画業界注目!「MANGA甲子園」なぜ話題?『白山と三田さん』くさかべゆうへい“創作技法”公開への思い

 NTTドコモが運営する映像配信サービス『Lemino』で配信されている漫画家リアリティ番組、「MANGA甲子園」が話題である。舞台は“令和ときわ荘”。プロの漫画家を目指す若き男女6名が2ヶ月間共同生活を送りながら、人気漫画家から出される課題を前に悪戦苦闘しつつ、人間としても成長していく姿を描いている。

  漫画家志望者たちが互いに切磋琢磨しながら漫画に向き合う光景は、まさに手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫など数々の有名な漫画家を生んだ“トキワ荘”を彷彿とさせるものだ。そして、漫画家を支える重要な存在である編集者の実態までリアルに描かれていることで漫画業界からも注目を集めている。

  なぜなら、番組内で一流の漫画家や現役の編集者が明かす、プロの極意はどれも参考になるからだ。こうした構成ゆえ、プロの漫画家はもちろん漫画家志望者、さらには編集者を目指したい人にとっても必見の内容になっている。

  今回は「週刊少年サンデー」で先日完結を迎えた『白山と三田さん』の作者であり、第3課題「笑える漫画を描け」にて審査員として登場した、くさかべゆうへい氏にインタビューを敢行。初めて漫画の審査員を務めた感想から、日頃プロの漫画家として大切にしている心構えや信念を聞くと共に担当編集者の森脇氏に漫画業界から見た番組の魅力などをじっくりと聞いた。

■審査員のオファーに驚き

自身が描く「白山と三田さん」を手に持つくさかべゆうへい氏

――まずは、「MANGA甲子園」の番組側から、審査員のオファーがあった時の印象を教えてください。

くさかべ:依頼が来たのは『白山と三田さん』の連載がはじまって、1年半くらいのタイミングでした。僕も連載を始めたばかりの新人漫画家ですから、自分でいいのだろうかと、びっくりしたことを覚えています。というのも、数年前までは僕も出演者同様に雑誌に投稿を続け、審査される側の立場でしたから。

――そんな先生が、初めて審査する側に回ったわけですよね。

くさかべ:うまくできるか不安はありました。ただ、ベテランの作家さんとは違う、僕の立場や見方ならではの審査ができれば意味があるのかなと思い、引き受けることにしました。

――先生が審査の際に注目したことはなんでしょうか。

くさかべ:読みやすい漫画になっているか、という点をしっかり見ましたね。コマ割りもそうですし、一コマに入っている吹き出しの量は適切か、などは漫画の読みやすさに繋がるポイントです。こうした基本を大切にして漫画を描くことを、僕は日頃から凄く意識しています。

――くさかべ先生が出したお題は「笑える漫画を描け」でしたね。くさかべ先生のこのお題に対する思いや、参加者に対して持っていた期待などを教えてください。

くさかべ:笑える漫画というだけでもテーマが広いので、挑戦しがいがあるのでは、と思ったからです。実際、僕もどんな作品が仕上がるのか想像もつかなかったので、審査の日が来るのが楽しみでしたね。

■作品は忖度なしで厳正に審査

審査員になったことに驚きながらも、審査は厳正に行ったと語るくさかべゆうへい氏。

――1位にパンダネコさんの『すべてはプリンのため』、2位に三好真太郎さんの『妄想中』を選ばれていました。これは一切の忖度なしで、先生が自ら選んだのでしょうか。

くさかべ:本気で審査をしました。1位、2位はすぐに決まったのですが、3位以下は僅差ながらどれも力作ぞろい。順位をつけるのはかなり悩みました。

――1位、2位の選定理由を教えていただけますか。

くさかべ:『すべてはプリンのため』は読み進めていくほど面白くなっていき、最後まで笑いが続く構成で、読みごたえがありました。『妄想中』も良かったのですが、1位との差は全体的な笑いの量が少ないことですかね。作者がここで絶対に笑わせるぞ、と狙って描いたシーンは本当に面白かった。でも、それ以外にも、小刻みに笑いが挟んであればなお良かったなと思いました。

――3位から6位の漫画のなかで印象に残っている漫画、参加者はありますか?

くさかべ:蒼乃さんの『最高に可愛い先輩の話』はギャグで笑わせるというより、キャラクターの関係性を大切に描いた、読者をほっこりさせる笑いでした。僕が普段描いている笑いと違う方向性で楽しませていただきました。作品に順位がつくのはいいことだと思います。上位の人は素直に嬉しいと感じるでしょうし、残念ながら下位だった人はこれを機に奮起すると思いますから。僕も新人賞に投稿していた頃、どうして入賞に至らないのか真剣に分析していましたからね。