Netflixでも人気の「赤ずきん」がマーダーミステリーに? 『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』をRabbithole酒井りゅうのすけ&白坂翔がプレイした結果

 2020年にベストセラーとなったミステリー小説『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』に端を発した、青柳碧人による「赤ずきんシリーズ」。誰もが知る童話の世界観を巧みに組み込んだ同シリーズは話題を呼び、累計40万部を突破&Netflixで映画版も大ヒットを記録するなど、メディアミックスでも人気を広げてきた。そんななか、衝撃の新展開として世に送り出されたのが、マーダーミステリーゲーム『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』だ。

 「マーダーミステリー」とは、プレイヤー全員が殺人事件に関係するキャラクターになりきり、それぞれの目標を達成することを目指すアナログ推理ゲーム。ミステリーという性質上、結末を知ってしまうと二度とプレイできなくなってしまうが、自由度が極めて高く、集まったプレイヤーによって一度きりの物語が紡がれていくのが面白い。人気配信者がオンラインでこぞってプレイしていることもあって、注目度は高まるばかりだ。

 そんな“マダミス”というシーンに突如現れたのが、すでに幅広い人気を獲得している「赤ずきんシリーズ」の公式作品だった。果たしてどんな事件が起こり、プレイヤーにどんな体験をさせてくれるのかーー。

 リアルサウンドブック編集部はマーダーミステリー専門店 「Rabbithole」を訪ね、同店の運営を行うマダミスのエキスパートで、ボードゲーム業界のスターである酒井りゅうのすけ氏&白坂翔氏を直撃。初心者の編集部員2名とともに、実際に本作をプレイしてもらった。(編集部)

「一度楽しみ尽くしたコンテンツの“続編”が楽しめた!」(酒井氏)

 パッケージを開けると、シンプルなルールブック、プレイヤーが演じる登場人物の設定が書かれたキャラクターブック(4人分)、舞台となる城内庭園の地図、そして推理のヒントとなるカード各種と、エンディングブックが封入されている。進行役を務めるゲームマスター(GM)は不要で、ルールブックのQRコードから各人のスマホでガイドを受けられるという親切設計だ。

 クレール・ドゥ・リュヌ城にゲストとして招かれ、優雅な舞踏会を楽しむ赤ずきん。しかし、城内で不審な死体が発見され、状況は一変する。殺人事件に巻き込まれた容疑者たちは、真犯人を見つけ出すことができるのかーー。

 配役を決め、初心者の2名はぎこちなく会話をスタートするが、酒井氏と白坂氏のナチュラルな演技、鋭い考察に巻き込まれるように、すぐに残酷な童話の世界の住人に。ネタバレが許されないゲームであるため詳細は語れないが、真剣に悩み、笑い合い、冷や汗をかきながら、およそ2時間後にはそれぞれに感動と後悔が入り混じり、心に残るエンディングを迎えたのだった。

酒井りゅうのすけ氏

ーーというわけで、実際にマーダーミステリー『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』をプレイしていただきました。プロの目線から、率直な感想を聞かせてください。

酒井りゅうのすけ(以下、酒井):僕はもともと「赤ずきんシリーズ」を読んでいて、Netflixで配信されている映画も観ていたので、「一度楽しみ尽くしたコンテンツの“続編”が楽しめた!」という、ボーナストラックのような感覚でうれしかったです。同時に、「やっぱりこのシリーズは面白いなぁ」と思いましたね。

 多くのマーダーミステリーをプレイしてきた立場から言うと、原作モノの作品も増えているなかで、本当の意味で「良いコラボ作品」になっているという印象です。というのも、小説も映画もまったく知らなくても絶対に楽しいし、その上で、原作が持っている面白さーーつまり、童話的な世界観だったり、「○○○○○○」(※ネタバレ防止)のようなお馴染みのアイテムがミステリーに絡んでくる部分だったりが、しっかり出ていて。原作に忠実なのにネタバレもなくて、原作を知らなかった人は小説を読みたい、映画を観たい、という気分になるでしょうね。

白坂翔(以下、白坂):実際、さっそく調べて「映画版はムロツヨシさんが出ているんだ、観よう!」なんて思っていたところです(笑)。僕はまだ「赤ずきんシリーズ」に触れたことがなくて、ゲームが進行するなかで「え? 魔法がある世界なの?」というレベルだったのですが、すぐに作品の世界に入り込めました。

酒井:もちろん、小説や映画と比較してマーダーミステリーのマーケットは小さいですから、「作品の認知を広げる」という効果は大きくないかもしれません。けれど、この作品を深く愛してもらうツールとして最高ですね。『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』をプレイして、Netflixで『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』を見たら、確実に「次回作は?」ってなりますよ(笑)。

白坂:純粋にゲームとしても捉えても、初心者がマーダーミステリーの入門編として楽しむこともできるわかりやすさがあって、おすすめできますね。シチュエーションを変えればいくらでも事件が描けそうなので、ぜひ続編もお願いします(笑)。

白坂翔氏

「「体験」としての没入感が圧倒的なんです」(白坂氏)

 実際、初心者の編集者もあたふたしながらもしっかり楽しませてもらい、結果として「痛み分け」と言えるような結末を迎えることができた。

 酒井氏、白坂氏ともその「バランスのよさ」を評価しており、マーダーミステリーのエキスパートからしても、ゲームとしての完成度は高いようだ。「対面で議論を戦わせるゲーム」と考えればややハードルの高さを感じる人もいそうだが、ビギナーにもぴったりの『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』で“マダミスデビュー”をしてしまえば、その先には大きな楽しみが広がっていると、両氏は言う。

ーーまだ実際にプレイしたことがない、という人のために、あらためて「マーダーミステリー」というゲーム自体の魅力についても聞かせてもらえますか。

酒井:皆さんはこれまで、小説、映画、漫画など、様々な形で「物語」というものに触れていると思います。今回の「赤ずきんシリーズ」も、まず小説があって、映画があって、多くの人に愛されてきましたよね。そのなかでマーダーミステリーというのは、同じくひとつのコンテンツでありながら、物語との触れ合い方がまったく違うものなんです。僕はよく「究極のごっこ遊び」と表現しているのですが、物語を外から見るのではなく、中から体験する。今回、『赤ずきん、舞踏会で死体と出会う。』を遊ばせてもらって、原作の主人公である「赤ずきん」はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)でしたが、映画を観ている僕からすると、すぐそこに橋本環奈ちゃんが座ってる感覚でしたよ(笑)。そういう没入感が、マーダーミステリー最大の魅力だと思っています。

白坂:そうなんですよ。例えば、映画を観たり、ビデオゲームをプレイしたりするとき、主人公に感情移入することはできると思うのですが、それって「なんとなく」なんです。自分でキャラクターを操作するゲームでも、「キャラクターの気持ち」に完全に入り込めるかというとそうではなくて、やっぱり「キャラクターを動かしている自分」がいる。「本当にマリオの気持ちになってクッパに立ち向かう」というのは、なかなか難しいですよね(笑)。それがマーダーミステリーだと、そのキャラクターになりきって遊ばざるを得ないし、自分で考えて行動して、自分の言葉で相手を説得することになるので、「体験」としての没入感が圧倒的なんです。自然と感情が入り込んでしまう。

酒井:実際に自分ごととして体験して、葛藤に耐えられなくなったり、作中の誰かのことを思って泣いてしまう人も少なくないんです。殺人事件の当事者になる、という多くの人にとって非日常的なシチュエーションですが、それを自分がリアルに体験するというのは、他のコンテンツにはないことですよね。

ーー「体験」というのは今回、実際にマーダーミステリーを初めてプレイして実感しました。今夜はジワジワ追い詰められる悪夢を見そうです(笑)。

酒井:そうそう、プレイ中ももちろん楽しいのですが、マーダーミステリーは終わった後が大事だと思うんです。例えば翌日になって、「昨日の夜、焼肉を食べたなぁ」と思い出すのと同じように、「昨日、殺人現場に居合わせて必死で議論したなぁ」という感覚が残る。焼肉を食べたことも、殺人事件に巻き込まれたことも、自分ごととして記憶している以上、同じく「体験」したことであって、真面目な話、マーダーミステリーはプレイヤーの人生の経験値を爆上げしているのではないかと。

白坂:「終わった後」ということでいうと、同じ事件を経験した者同士、ものすごい連帯感が生まれるし、飲みに行ったりなんかしたら感想戦が終わらないんですよね。時には「あのとき、ああ言ってくれれば疑わなかったのに!」なんてヒートアップしたり(笑)。仲がいいメンバーでプレイすれば当然楽しいし、知らない人とも一気に距離を縮められる、すごいコンテンツだと思います。

関連記事