連続ドラマの脚本家、7割輩出!『 シナリオ・センター式物語のつくり方』著者・新井一樹が教える、人気作家を生み出す秘訣

シナリオ日記で、大嫌いな部長への意識が変化、職場のストレスが軽減した事例も

シナリオ・センター式のメソッドについて、わかりやすいたとえ話を交え、わかりやすい言葉で話をしてくれる新井氏。本書を読めば、自身を俯瞰で捉えることで、相手に対してより伝わりやすい話ができることにもつながりそうだ。

――シナリオ・センターのこうしたノウハウは、脚本家、小説家を目指す人以外でも応用できるものなのでしょうか。

新井:ビジネスパーソンの受講者の方が、勤務先の部長のことが嫌いだと言うので、「シナリオ日記」を勧めました。「シナリオ日記」というのは、シナリオ・センター代表の小林が考えた日常のやりとりを、そのままシナリオに書いてみるという方法です。その方は、部長とのやり取りを記憶を頼りに整理したそうです。それを1週間ほど続けると、最初は嫌な上司だと思っていたのに、部長は意外に「ありがとう」と言っていたなとか、小さな良さに気づき始めたそうです。部長はいつもイライラしているけれど、私もいつも受け答えの時に「でも」から始めてるな、とそれならイライラするのは当然だと気づき、言い方を変えたそうです。すると、やり取りがスムーズになり、職場のストレスが軽減されたそうです。日常のトラブルも一度シナリオにしてみると、周りや自分の行動が、客観的に見えてきて、問題解決に繋がるかもしれません。

――非常に興味深いですね。創作をすることで、日常の視点をより広く持つことができるわけですね。

新井:例えば、目の前の人がお茶をこぼしたとしましょう。「なんだよ、忙しいのに」と思う人もいれば、「拭いてあげなきゃ」と思う人もいるわけです。物語をつくるという一歩引いた視点を持つと、それぞれがどんなことを感じ、なぜこんなことを言っているのだろうと、自分以外の立場を俯瞰的に考えるきっかけにもなります。「相手の立場になって考えなさい」とビジネスでも、しつけでもよく言うけれど、シナリオを使えば、誰でも楽しみながらできるようになります。相手の立場に立って考えることは、物語をつくるうえでも特に大切な考え方です。

――生成AIが脚本を書くようになっていますが、新井さんはどう考えていますか。

新井:自分では思いもつかないアイデアを提示してくれたりもするので、壁打ち相手にするなど、上手く使えばいいと思います。ただ、創作の根幹を任せるとなると、いかがなものでしょうか。なんだか、創作の一番楽しい部分、おいしいところを持っていかれる気がして、もったいないと思います。

シナリオ・センターに飾られている新井一の脚本。映画やドラマなど、これまでにも数々の傑作がシナリオ・センターのメソッドから生み出されている。

――おっしゃる通りで、生成AIとは付き合い方がポイントだと思いますが、創作の楽しみは創作者が味わうべきですよね。そのほうが間違いなく楽しいでしょうから。

新井:「主人公の趣味は何がいいと思う?」と生成AIに聞いたら、なるほどと思う設定が出てきたりします。こういう活用の仕方はありでしょう。でも、物語の重要なシーンで、2人の関係性をどう展開させていくか……と考える楽しさは、自分で持っているべきだと思います。

  人間って、凄い不思議な生きものだと思います。泣いている女の子の横にある蛇口から水が垂れていた。女の子が泣きながら、蛇口をキュッと閉める。感情的な状態なのに、理性的な行動をとったりする。人間とは何だろう。こうした内面を深掘りする脚本は生成AIには難しいでしょうし、それができるのが人間です。物語をつくるということは、人間が人間自身を見つめるためでもあります。だからこそ、生成AIでは、思いつかないような物語を生み出すことができるのです。みなさんの作家性を、どんどん発揮してもらえたらと思います。その手助けに、拙著がなってくれたら嬉しいですね。

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