『君と宇宙を歩くために』『大怪獣ゲァーチマ』『雷雷雷』……漫画ライター・ちゃんめい厳選! 11月のおすすめ新刊漫画
今月発売された新刊の中から、おすすめの作品を紹介する本企画。漫画ライター・ちゃんめいが厳選した、いま読んでおくべき5作品とは?
『君と宇宙を歩くために』泥ノ田犬彦先生
世の中に、“普通”の基準やソレを測る物差しなんてないけれど、例えばその場の空気を読んで会話をしたり、マニュアル通りに仕事をこなしたり.......世間一般が求める“普通”というものはやっぱり存在すると思う。『君と宇宙を歩くために』は、みんなが普通にやっていることができない、ヤンキーと転校生の友情を描いた作品だ。
ヤンキーの小林は勉強もバイトも続かず、何においてもドロップアウトぎみ。だが、彼は決してやる気がないのではなく「わからない」だけなのだ。勉強では何がわからないのかがわからない、バイトだって頑張りたいのにみんなと同じように仕事がこなせない。普通ができない自分に苦しんでいるキャラクターだ。そんな彼は、転校生の宇野との出会いをきっかけに変わりだす。作中では言及されていないが、小林はおそらくグレーゾーン、そして宇野は発達障害だと思わせる描写がある。
本作はそんな2人に普通を強いるのではなく、普通というものに歩幅を合わせる.......つまり、この世界で心地よく生きていくにはどうしたら良いのか? と。各々のペースで試行錯誤して前進していく物語なのだ。今いる場所から歩み出そうとする姿は、前でも、それが例え右や左だったとしても、こんなに眩しいものなのだと。新しい光を掴んだような気持ちになる作品だ。
『大怪獣ゲァーチマ』KENT先生
日本で長きに渡り愛され続けている“怪獣もの”。『大怪獣ゲァーチマ』そんな怪獣ものの新鋭と言っても過言ではない作品だ。
その昔、海から突如出現した怪獣によって被災した港町・匡波町。怪獣によって大きな被害を受けたものの、その後、活動を停止した怪獣は海に溶けて魚介類の豊かな栄養素となり、結果的にその町の経済を潤した。今では、厄災の元凶から一転し、“豊穣の神・ゲァーチマ”と崇め讃えられるように。主人公の宮矢子は、昔の出来事、そしてゲァーチマをどう捉えて良いのかわからない.......複雑な気持ちを抱えながら今も匡波町で暮らしている。そんなある日、匡波町に10年ぶりに怪獣が現れ、町は再び混乱の渦に巻き込まれていく。人類にとって圧倒的脅威である怪獣という存在。創作の世界では、それは討伐の対象であり、時には新たな敵に立ち向かうための強力な味方として描かれてきた。だが、本作は人間の都合で怪獣が厄災から神と称えらえる.......開始早々から心の奥底に違和感がまとわりつく、なんとも言えない気持ちに襲われる。
人間が神と称えたソレは本当は何者なのか? と、人間と怪獣の敵対を描くのではなく、両者の結びつきに迫るSFドラマだ。
『雷雷雷』ヨシアキ先生
冷静に考えるとそこそこ重い話なのに、そう感じさせないポップさ、気持ちの良いテンポ感がなんとも癖になる『雷雷雷』。
物語の舞台は、エイリアンとの戦争から50年が経過した世界。人類は、“宇宙害蟲”というまるで害獣害虫のエイリアン版のようなものに迷惑しつつも、それなりに平穏な毎日を送っている。主人公・スミレは、親の借金を返済するために宇宙害蟲の駆除会社に勤務していたが、ある日UFOに攫われたことで彼女の日常は一変する。例えば、自分の片腕がエイリアンに変化したり、頭の中からエイリアンの声が聞こえたり、別のエイリアンに殺されかけたり........“一変”を突き詰めていくとそこそこハードな出来事がスミレを襲う。だが、常にオドオドしている頼りのなさ、かと思えば肝が据わるとハイになるという彼女のなんとも読めない、それでいてユニークなキャラクター性が、本作を“薄暗いエイリアンもの”ではなく“爽快感のあるポップなエイリアンもの”へと昇華させる。
どこまでいくんだ? と物語の展開はもちろん、スミレのリアクションにワクワクが止まらない本作。早くも2巻が楽しみな作品だ。