『葬送のフリーレン』はヒンメルが作った物語? アニメ第12話「本物の勇者」放送を前にその魅力を分析

 11月24日23時より、人気アニメ『葬送のフリーレン』第12話が放送される。タイトルは「本物の勇者」。原作漫画でも印象的なエピソードで、勇者ヒンメルへの愛着がさらに深まる1話になるだろう。本稿ではあらためて、本作のもう一人の主人公と言えるヒンメルの魅力をまとめておきたい。

 ネタバレは公式のあらすじの範囲にとどめるが、第12話でフリーレン一行は「剣の里」を訪れる。そこはかつて、世界を滅ぼす厄災を打ち払う者のみが抜くことができるという「勇者の剣」があり、勇者ヒンメルがそれを抜いたとされる場所だ。魔物退治の依頼をこなすなかで、戦士シュタルクの過去とともに、勇者ヒンメルのある秘密が明らかにされる。そのとき、「本物の勇者」という言葉に勇ましさとはまた違う輝きを感じるはずだ。

 作中ではすでにこの世を去っているヒンメルだが、その存在感は高まるばかりだ。1000年以上生きてきたエルフの魔法使い·フリーレンを“たった10年”で大きく変えることになったヒンメルはしかし、強烈なインパクトのあるパーソナリティとは言い難い。

 確かに、銅像にされるとなればポーズにこだわり抜き、職人をブチギレさせるなど、ややナルシスティックで軽薄なところはあるが、それも意識的な演出の感が強く、いつでも他人を気遣う優しい人物だ。特に悠久の時を生きるフリーレンに対しては、決して押し付けがましくない温度で、人生の機微を伝え続けていた。フリーレンは新たな旅のなかで、ことあるごとに彼の言動を思い出し、成長していくことになる。

 そのこと自体がある意味でヒンメルの計画通り、というのが面白い。ファンを感動させたエピソードだが、上述のように銅像の出来にこだわり、各地に建てさせていったのは、自分たちがこの世を去った後も生き続けるフリーレンを孤独にしないためだった。事実フリーレンは、各地でヒンメルの(時には自分自身も含むパーティの)銅像に出会い、旅の記憶を辿っていく。その意味で、『葬送のフリーレン』はヒンメルが脚本を書いた物語とも捉えることができるだろう。

 フリーレンは意識的にも無意識的にも、ヒンメルにならった行動を取っている。例えば、人助けに際して必ずといっていいほど報酬(といっても、何の役に立つのかわからない民間魔法がほとんどだ)を受け取るのは、お人好しのヒンメルが「借りを作っては本当にその人を助けたことにならない」というスタンスだったから。本作にはド派手な戦闘シーンもあるが、それ以上に、フリーレンが旅をともにするフェルンやシュタルクにヒンメルとの思い出を語るシーンがハイライトになる。そのことがヒンメルの魅力を雄弁に語っていると言えよう。

 「勇者」という言葉に相応しい勇姿という意味では、ヒンメルの戦闘能力は原作でもまだあまり描かれていない。ただ世界を救ったという事実があるだけで、フリーレンが思い出すのは旅のなかでの面白おかしく、優しい言動がほとんどだ。ヒンメルは「魔物を打ち倒す勇ましい者」ではなく、「人々を明るく勇気づける者」という意味で、誰よりも魅力的な「勇者」だったのではないか。フリーレン一行の旅路とともに、まだ語られていないヒンメルのエピソードにも注目していきたい。

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