「末期がんはパワーワード」叶井俊太郎、最後に語る家族や仕事、書籍への思い「くらたまのあとがきは笑えない。だけど、良い文だよね」
結婚生活はなぜこんなに続いた?
――エッセイストで小説家の中村うさぎさんは、叶井さんが倉田さんと出会うきっかけをつくってくれた方だそうですね。
叶井:はい。くらたまを紹介してくれたのはうさぎさんです。食事の時に、これからくらたまを連れていくからと言われて、対面したのがきっかけ。だから、うさぎさんには感謝していますね。対談中も、ずーっとうさぎさんは喋り続けていたね。彼女も病気で死の淵を彷徨っていた時期があったし、今はもう人生に未練がないと言っていたので、そのへんは俺と気が合うのかもしれない。
――中村さんは、「結婚生活は絶対に続かないと思った」とおっしゃっていますね。しかし、叶井さんの4度目の結婚生活は、なんと15年も続いています。
叶井:以前から、すぐ離婚するんじゃないと、ずっと言われ続けていましたね(笑)。ここまで続いたのが自分でも驚きです。長続きした理由を考えてみると、はじめて出会った時、俺、くらたまと同じ本を結構持っていたんですよ。中瀬ゆかりさんと岩井志麻子さんとの対談でも話したけれど、犯罪もの、自殺のエピソードなどの興味の対象が近くて、くらたまと会うと1日中話すこともあったな。
――持っていた本の分野が似ていたということですか。
叶井:そうそう。あんまり本ってバッティングしないじゃないですか。実際、ないでしょ? だから珍しかったんだと思う。あと、子どもが生まれたのは、結婚生活が続いた理由として大きいよね。子育てという共同作業を一緒にやったのは良かったと思います。
――あとがきに、倉田さんからのメッセージも載っています。読み終えて感想は。
叶井:真面目な文章だったね(笑)。本人には「笑えないよ!」と言ったけど、彼女の心境はああいう感じなんでしょうね。でも、みんなが絶賛しているなら、よかったと思いました。ただ、「あとがきはちゃんと原稿料出るんでしょうね?」と突っ込まれたよ(笑)。俺もサイゾーの社員だし、揖斐社長に言いにくいから、「タダかもしれないよ」と言ったら、「そりゃそうだよね……」としょげていました。だから、くらたまは内容より原稿料を気にしていたと言っておきます(笑)。でも、そこはまあ、気にするよね。プロの書き手で、原稿で食っている人だから。
――倉田さんから、サイゾーに請求書は届いているそうです。
叶井:早いね(笑)。いい文章書いて褒められた私はタダなのに、あなたは印税貰ってずるいと言われたら俺も嫌だから、原稿料が出るのはいいことですよ。あ、俺の印税は、社員だからどうなるのかわからないけれど、くらたまのおかげでニュースになって、Amazonで結構予約が入っているみたいだよね。
最大の未練は漫画の続きが読めなくなること
叶井:そうは言うけれど、実際は体調は良くないんだよね。本当は末期がんの人は、インタビューなんて受けちゃいけないんだよ。だって、病気なんだから! 余命半年と言われて、1年半過ぎているから、もうそろそろ……じゃないかな? 最近はがんが大きくなって臓器を圧迫し、食事が思うように取れなくなった。胃を半分に切って食道と小腸を結ぶ手術をしたから20~30kgくらい痩せたんですよ。だから、常に体調は悪いよね。食事も1人前は無理で、お粥くらいしか食べれないし、集中力もなくなっている。でも、今のところは仕事に大きな支障は出ていないかな。
――今、叶井さんが力を入れて取り組んでいる仕事は何でしょうか。
叶井:映画『ホラー版花咲かじいさん』と『ホラー版桃太郎』は、プロデューサーとしてお金集めもやっているので、成功させたいと思います。末期がんの方が、逆に仕事がやりやすいんですよ。監督を含む周りの人も俺が末期がんと知ったうえで仕事をしているから、何かと気を使ってくれるし。普通は断られるようなお願いごとも、「叶井も死んじゃうからなあ」と言って優先してもらえるから、スムーズに進んでいます。
――2~3倍速で仕事が進んでいる感じですかね。
叶井:ありがたいことに、来年の8~9月まで上映スケジュールが決まっていますよ。その頃には俺は生きていないと思うけれどね(笑)。仕事をしていて、末期がんは仕事に使える“パワーワード”だと思ったよ。ある女性に「最後のお相手をして欲しい」なんて話したら、相手は「私でいいの?」と言ってくれたりさ。こっちはもう性欲がないからギャグで言っているだけなんだけれど(笑)、いろんな面で融通が利くし、お願いごとはすべて通ると思う。明日死んでもおかしくないと言ったら、すぐ会おうと言ってくれる人ばっかりだよ。
――そんな叶井さんですが、唯一未練があるとすれば、読んでいる漫画の続きが読めないのが辛いそうですね。どんな漫画が気になっているのでしょうか。
叶井:最近だと『ベルセルク』だね。『ベルセルク』は俺が死ぬまでに終わらないだろうから、ラストが気になるな。森恒二さんの監修のもとで再開したけれど、森さんは生前に三浦建太郎さんからラストまで聞いているそうじゃない。俺ももうすぐ死ぬから、最後を教えてくれと言いたいよ(笑)。
――叶井さんの本業である映画はどうですか。
叶井:来年、再来年もメジャー、インディーズともに面白い映画が出てくるだろうね。やっぱり、新しい映画が見れなくなるのは悲しいな。死んでしまえば面白いものに触れられなくなるのは、やっぱり心残りかもしれないね。