Netflixで実写ドラマ化した話題作『御手洗家、炎上する』 あの日、なぜ火事が起こり一家は崩壊したのか

 本作で象徴的なのは、「バレッタ」や「パンプス」、「サラダサンド」のように、前半ではキーポイントとなる「モノ」が各章のタイトルになっているところだ。バレッタとパンプスまでは御手洗家で見つけた杏子・柚子姉妹の母の持ち物であり、それをすべて真希子が自分のものにしているという点で、ある意味、杏子のイメージできる範囲のモノだった。ところが「サラダサンド」の章で、希一・真二兄弟の現在に触れた時、杏子のなかで新たな謎がうごめく。それから後半にさしかかりラストに向かうにつれて、各章のタイトルも「モノ」の名前ではなくなっていく。

 そもそもタイトルの『御手洗家、炎上する』にも謎が満ちている。「炎上」が火事のことだけを指すのなら、その前にくるのは「御手洗家の家」なのではないだろうか。タイトルの「炎上」の意味を推察することにも、本作を読む醍醐味がある。

 謎は主人公の杏子の予想を超えていき、それによって思いがけず杏子と、本作を読んでいる私たちの距離もぐっと近づいていく。杏子のなかで火事の謎が深まるにつれて、彼女は読者にとって、どんどんと共感できるキャラになるのだ。

 二度目に読み返すときは、杏子、柚子、皐月、真希子など、それぞれの立場からこの事件を見つめてみるのも面白いかもしれない。

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