『劇場版シティーハンター 天使の涙』映像化の難点とは? 原作「海原編」との比較

映画における海原編は軽い

 そして、筆者を含む海原編が好きな原作ファンというのは、作品の表面にはなかなか出てこないエンジェル・ダストに関連する暗部を好んでいると言えるだろう。だからこそ、『劇場版シティーハンター 天使の涙』の中の海原編の軽さが気になる。

 例えば、海原神と冴羽獠の関係を手っ取り早く語らせるためにアンジーというゲストキャラクターを登場させているのだが、アンジーの海原に対するダディイシューがメインになっているので、獠をはじめとするキャラクターたちと海原の関係性がぼやけてしまっている。

 また、物語の要であるエンジェル・ダストは、ヘモグロビンに結合して体力を増強するナノマシンという設定で、レッドブルのような気軽さで投与する薬になっている。ADMと言われる強化型はそれなりのクセがあるが、原作のような恐ろしさはない。首を切り落としたりロケットランチャーで木っ端微塵にしたりしなければ止められなかった原作のエンジェル・ダストとは大きく異なる。

 海原編の要素だけ抽出してコンパクトにまとめ、さらに原作に馴染みのない観客にも理解できるストーリーに仕上げるのは至難の業だっただろうが大味感は否めない。

 とはいえ、それは北条司先生が天才すぎるからというもの。不人気だったハードボイルド時代を伏線へと昇華させ、物語の底を流れる水脈のようにさまざまなエピソードとキャラクターを繋げ、壮大なクライマックスへと誘うなんて並大抵の才能ではない。『劇場版シティーハンター 天使の涙』によって、改めて原作の凄さが浮き彫りになったと思う。そのことに敬意を表しつつ、筆者はムビチケ片手に再び劇場に足を運びたいと思う。

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