浅野いにお『デデデデ』アニメ映画の注目ポイントは? 原作の独創性を振り返る
浅野いにおの漫画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』が、2024年春に劇場アニメとして公開されることが決定した。(参考:浅野いにお原作『デデデデ』前後編で劇場公開決定 監督は『PSYCHO-PASS』の黒川智之)
前後編2章立てでの制作が決まり、改めて注目が集まる『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(以下、『デデデデ』)。本稿ではアニメ化に向けて原作コミックが持つ魅力をプレイバックしつつ、アニメ化への期待についても考えたい。
東京の上空に突如現れた“侵略者”の巨大な“母艦”。「8.31」と呼ばれる大災害は、いつしか日常となり、侵略者と母艦の存在は当たり前の風景となった。そんな東京で小山門出は中川凰蘭ら友人とささやかな青春を謳歌する。やがて訪れる人類滅亡の日も知らず……。
本作の作者である浅野いにおはこれまでも『ソラニン』や『おやすみプンプン』といった作品で漫画史に大きな足跡を残してきた。本作はそれまでの浅野の持ち味だった心理描写に加え、SF的な切り口とブラックかつシニカルなユーモアをメインとした、言わば浅野いにおの新機軸となった作品だ。“侵略者”と呼ばれる、いわゆる宇宙人の襲来、そして戦闘は一見すると非日常的でフィクショナルな漫画らしい設定だが、本作はそんな宇宙人の存在、ディストピアすらも日常と化してしまった日本、そして世界が描かれる。そんな設定の本作を今改めて読むと、ロシアとウクライナの戦争や北朝鮮が放つミサイルが日常化し、以前ほど騒がれなくなってしまった現在の世界やこの国の姿ともオーバーラップする。
『デデデデ』は上述した設定そのもの以外にも、様々な描写から現実の世界とのリンクを感じることができる。本作を語る上で欠かせないのは東日本大震災とそれ以降の社会だろう。“母艦”が来襲した日を8.31と呼んだり、2015年頃に話題を呼んだSEALDsらしき学生活動グループ“SHIP”が登場したり、“A線”と呼ばれる放射線を彷彿させる設定が組み込まれている。東日本大震災以降この国で起こった“事実”がフィードバックされている作品なのだ。
陰謀論にハマってしまったキャラクター、作中ではネトタコ・ブサイカと呼ばれるいわゆるネット右翼、左翼を彷彿とする設定が登場するなど、母艦の襲来を機に分断された市民の描写も極めて現代的だ。小池百合子都知事や元アメリカ大統領のドナルド・トランプをモチーフとしたと思われるキャラクターや、SNSやスマホゲーム、インターネット掲示板と市井の人々の関わりの描き方は極めてリアリスティックで、読者の記憶や経験を生々しく刺激する。この『デデデデ』という作品は宇宙人襲来SFという極めてフィクショナルな設定と世界観を通して、今我々が直面している現実を映し出しているのだ。劇場版アニメは来春の公開ということで、原作における東日本大震災後というニュアンスはもちろん、コロナ禍も踏まえた作品になることを期待したい。