【漫画】人工知能搭載ロボットが抱く「感情」は本物か? 近未来の三角関係を描いたSF漫画が切ない
ーー本作を創作したきっかけについて教えてください。
鈴木マ球(以下、鈴木):ChatGPTなどのAI技術が話題になった2022年、Googleで開発された会話能力をもつ大規模言語モデル「LaMDA」に感情があるんじゃないかと主張した研究員が解雇されてしまうというニュースがありました。
そのニュースからSF作品のようなことが現実で起きていると思い、AIやロボットに興味が湧きました。ロボットに感情が宿る作品は多いですが、実際にロボットに感情がある可能性が出てくると世間の人々は喜ばしい感情を抱かず、AIに支配されてしまうといった不信感さえ湧いてしまうのだと感じたことが創作のきっかけになっています。
また本作に登場するロボット・ライヒは映画『インターステラー』に登場するロボットから影響を受けています。そのロボットは鉄の塊のような見かけなのですが、ときにジョークを言ったりなど、感情豊かに見える存在でした。人間を操ろうとする側面とともに、人間の仲間になれるような側面をもつロボットを描きたいと思い、本作を描きました。
ーーロボット・ライヒを描くなかで意識したことは?
鈴木:人間って動物や物に対し、自分たちと同じようなことを考えていると思ってしまうことがあると思います。ペットが飼い主である自分をあたかも我が子のように慕ってくれている、みたいな。そのためライヒはおちゃめな行動を取りますが、その行為や表現する感情が本音であるかはわからないように気を付けました。
本を重ねサンドウィッチをつくるなど、作中でライヒはドジっ子のように振る舞いますが、同時に人間を出し抜こうという一面もあるようにも見えて。最後にライヒと博士がわかり合えたように見えるものの、本当にそうなのかはわからず、感情が芽生えたと言っていることも嘘なのかもしれない。
私たちが予想できる範囲を超えてくる存在として、ライヒを描こうと思いました。
ーー博士と助手の2人を描くなかで意識したことは?
鈴木:博士は立場として私に近いです。むかし働いていた会社で人間関係によって自分の仕事が妨げられてしまうことを相談した際、その人から「あなたはロボットじゃないんだから、周りの人とうまくやっていかないと」と言われたことが今でも頭に残っています。
できるなら自分のタスクだけをこなしながら生きていきたいけれど、自分にはできない。そんな生きづらさが博士の本質にあると思います。
博士とは対照的に、花森くんは他人に興味を持つことができる。自分にはないものを持っている人物と、自分に似ている人物が出会うとどんな反応になるのかと思い2人の関係を描きました。
ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンを教えてください。
鈴木:冒頭で『エヴァンゲリオン』に登場する綾波レイが笑顔になり、博士が裏切られたような気持ちになるシーンは自分の記憶を投影しました。
綾波レイは主人公と関わるなかで感情や笑顔を見せるようになり、彼女がはじめて笑う瞬間は印象的なシーンとして取り上げられることが多いです。ただ私は彼女の非人間的な一面が好きだったので、彼女が笑ったときに人間らしさが正しさなのかなと思い、裏切られたような気持ちになって。
そんな私の過去もあり、ロボットを題材とする本作では自分の抱いた気持ちを入れたかったです。
ーーライヒと交わったラストシーンでも、博士は笑顔を見せませんでした。
鈴木:このシーンは喜びのようなものでつながっているのではなく、寂しさでつながっているところが気に入っています。普段から希望をもって楽しく生きることを強要される感覚を覚えることがあるのですが、負の感情をもっていることも自分らしさだと感じていて。他人と少し異なる寂しさを抱く2人が出会い、理解し合えたことを本作で描きたいと思っていました。
あくまでも機械としての体裁を保ちつつ、腕がバラバラとなり武骨だけど、それでもなんとか抱きしめている。そんな絵柄を意識しながらロボットと人間が抱き合う姿を描きました。
ーー今後の目標を教えてください。
鈴木:普段の生活のなかで違和感や孤独を抱いている人に向けて漫画を描いていきたいと思っています。また本作に登場した人工知能のように、現代の問題が身近に感じられるような作品にしていきたいです。