『僕のヒーローアカデミア』オールマイト、笑顔で戦う意味ーー“個性”なき戦いが映すもの

“笑顔”で戦う意味

 そんなオールマイトの特筆すべき点は、“笑顔”だ。彼がデビューした当時は、ヴィランによる犯罪が横行し市井の人が暗闇に何かいないか怯えて暮らす時代だった。第398話「八木俊典:ライジングオリジン」で描かれた志村菜奈との出会いで、高校生の彼は両親が過去に殺されたこと、そして奪った者が得をする世の中、奪われた人の悲しみが憎悪に変換される螺旋を許せないと話している。しかし、その表情は志村が驚いていたほど“笑顔”だった。こういった内容の話をするキャラクターは、大概が怒りや憎しみに顔を歪ませることで「許せない」感情を表現される。しかし、八木は“皆が笑って暮らせる世の中”にすることを何より大切に考え、憎悪の螺旋を生み出さない為にも笑顔でいたのではないだろうか。ヒーローになり、名実ともに存在だけで犯罪の抑止力になる“平和の象徴”となった彼は常にその笑顔を崩そうとしない。そこには師の志村による教えもあった。しかし、そんな彼が「USJ襲撃事件編」でヴィランの攻撃を受けるA組生徒を守る為に駆けつけた時、笑顔どころかとてつもなく怒っていたのも印象的だ。先述の生徒想いな部分が、こんな初期の頃からすでに描かれている。

 そして、彼が笑顔を絶やさない大きな理由はもう一つある。「ヒーローとしての重圧から己を騙すため」だ。興味深いことに、彼はトゥルーフォームの時はむしろ常に口角が下がっている表情をしていて、あまり笑わない。しかし今回のAFO戦はトゥルーフォームの姿でヒーローとしての“笑顔”を常に保ち続けている。内心怖くても、笑顔のやつは最強。そんな風に笑うから、AFOも面白くない。その加虐性を煽るかのように、オールマイトは笑い、笑いまくる。その“ヒーロー”としての執念は、もはや狂気そのものである。

 50半ばを超えた彼の人生も、いろいろあったことだろう。それを乗り越えた先で、宿敵AFOを“親友”と呼びながら逃げることなく戦い続ける姿に心打たれる。一度はデクに託してしまった重圧と自分の無力さに迷った時もあったが、そんな時に彼を奮い立たせたのはヴィラン・ステインの言葉だった。間違いなく「ヒロアカ」の世界における圧倒的なヒーローとして、彼の戦いの行方とその勇姿を静かに見守っていたい。

■関連情報
『僕のヒーローアカデミア フィギュア オールマイト』
仕様:PVC、ABS 塗装済み完成品フィギュア 1/8スケールフィギュア
価格:25,850円(税込)
発売元:株式会社タカラトミー(企画制作:株式会社セガ)
©堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会

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