「CREA夜ふかしマンガ大賞2023」モテる男子のままならぬ恋物語、田沼朝『いやはや熱海くん』が第1位に
『CREA』(文藝春秋)2023年秋号において、同誌で第二回目となる漫画好きの識者による「CREA夜ふかしマンガ大賞」を発表された。第1位は、田沼朝による『いやはや熱海くん』だ。
総合電子書籍ストア「ブックライブ」のデータによれば、マンガ作品の書籍購入が一番多い時間帯は22時以降、ピークは深夜0時。マンガは電子書籍で読むという人が多数派になりつつある今、仕事に子育てに忙しい大人世代の女性においても、夜の貴重なひとり時間にスマートフォンやタブレットでマンガに没頭するという現象が起きている。
そこで眠りにつく前のひとときに、日中のあれこれを忘れさせ、新しい世界に連れ出してくれる力のある作品を称える「CREA夜ふかしマンガ大賞」が昨年秋に誕生し、今年第二回が開催された。
選考には、各界を代表するマンガ好き30名が参加。犬山紙子(イラストエッセイスト)、宇垣美里(フリーアナウンサー・女優)、岸田奈美(作家)、雲田はるこ(マンガ家)、コナリミサト(マンガ家)、佐久間宣行(テレビプロデューサー)、スカート・澤部渡(ミュージシャン)、つづ井さん(マンガ家)、鶴谷香央理(マンガ家)(以上50音順)をはじめ、ベテラン書店員やマンガ研究家、専門ライターの皆さんが、2023年のナンバーワンを選んだ。また、今年から一次選考として、一般読者による投票も実施し、1500を超える投票が集まった。
第二回の大賞受賞作は田沼朝の『いやはや熱海くん』(KADOKAWA)。主人公の熱海くんは高校1年生。学年一の美形で、毎日のように女の子に告白されるが、熱海くん自身は同性が好きで、昼休みを一緒に過ごす1学年上の足立くんが気になっている。
しかし、本作は「BL」でも「ブロマンス」でもない。作品自体が安易なジャンル括りを「必要としない」と宣言しているようにも感じられ、これまでにない物語になっている。熱海くんは「男の人が好き」ということを隠してはいないけれど、だれかれ構わず言うべきではないと思っている。悩んではいないけれど、自分の〈本当〉はどこにあるのかをゆっくりと考え続けている……。
自分に正直で、自分にも他人にも尊敬と期待をほどよく持つ主人公が、周囲の人たちと交わす滑らかな関西弁のやりとりもやわらかく、読んでいるうちに無駄な力がぬけていく、そんな「パワースポット」のような作品だ。
掲載誌情報
雑誌名:「CREA」2023年秋号
発売日:2023年9月7日
定価:950円(税込)
発売元:株式会社文藝春秋