新紙幣、誰が良かった? 坂本龍馬、湯川秀樹、美空ひばり……漫画家で最も推されたのは?
日本銀行と財務省が、新紙幣を2024年の7月にも発行する方向で調整されている。長きにわたって“ユキチ”の愛称で親しまれていた1万円札の福沢諭吉は見納めとなり、渋沢栄一に交替する。他にも5千円札の樋口一葉は津田梅子に、千円札の野口英世は北里柴三郎に変わる。紙幣のデザインの刷新は2004年以来で、約20年ぶりという。
紙幣は国を象徴する存在であるし、外国人観光客の目にも触れるものであるため、肖像に誰がふさわしいかという議論はしばしば起こる。今回の3人が選定されたときも、「知らない」「無難すぎる」「妥当だ」など、様々な意見が飛び交った。そして、Twitterでは「この人の方が良かったのでは?」という意見が多く書き込まれ、一時は大喜利状態になった。
以前から紙幣の肖像に推す声が多いのは幕末の英雄の坂本龍馬だが、昭和初期から戦後にかけて高額紙幣の象徴であった聖徳太子を復活させるべき、という意見も根強い。他には日本人初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹、歌手の美空ひばりなども人気が高い。また、新1万円札の裏には東京駅の赤レンガ駅舎が描かれているが、佐賀県唐津市ではその設計者の辰野金吾を推す声もあった。辰野は唐津の出身である。
そして、Twitter上で圧倒的な人気を誇ったのが、漫画家の手塚治虫である。漫画の神様として生涯に渡って数々の名作を生み出し、日本が世界に誇る文化を創造した人物として、確かに手塚ほどふさわしい存在は他にいない。新紙幣の発表を行ったのは当時財務大臣だった麻生太郎である。麻生は漫画好きとしても知られたことから、なぜ手塚を入れなかったのかという意見もあった。
海外では芸術家が紙幣の肖像になることが少なくない。例えば、スイスで1990年代後半から発行されたスイス・フラン紙幣には、建築家のル・コルビュジエや、作曲家のアルテュール・オネゲル、画家のゾフィー・トイバー=アルプ、彫刻家のアルベルト・ジャコメッティなどが起用された。
ドイツで1990年前後から発行されたドイツマルクの紙幣には、詩人のベッティーナ・フォン・アルニム、建築家のバルタザール・ノイマン、作曲家のクララ・シューマン、童話作家のグリム兄弟などが起用されていた。
そう考えると、これまで日本の紙幣の肖像では小説家の夏目漱石(千円札)や樋口一葉(5千円札)、紫式部(2千円札の裏面)が起用されてきたものの、小説家にかなり偏っている印象を受ける。スイスとドイツで人気が高い文化人は音楽家や建築家である。言うまでもなく、日本には世界に誇る音楽家や建築家が多数いるのに、選ばれなかったのは残念である。
個人的には、もっと幅広いジャンルから選定されても良かったと思う。そして、手塚治虫は日本の唯一無二の文化である漫画を創造した人物なだけに、もし選ばれていれば、オリジナリティあふれる紙幣になっていたと思われる。ちなみに、フランスではかつて、小説家のサン・テグジュペリを肖像にした50フラン紙幣に「星の王子さま」をあしらったことがあった。手塚が肖像の紙幣なら、裏面に手塚が生み出したキャラクターを載せれば、日本人にはもちろん、外国人も人気の高い紙幣になっていたかもしれない。
さて、あなたが考える紙幣に相応しい人物は誰だろうか。この機会に考えてみると面白いはずだ。なお、日本の紙幣はおおむね20年周期で新しくなっている。ということは、次の紙幣の刷新は2044年頃になる。しかし、この頃にはキャッシュレス化が進み、渋沢栄一の1万円札が最後の1万円札になるのではないかという意見もある。果たして手塚治虫が起用される日は来るのだろうか。